小学校4年生には歴史の学習の時間はないので、平和学習のきっかけをどこにしようかと考え、沖縄のことから平和学習を行おうと計画しました。漢字の「沖縄」とカタカナの「オキナワ」がありますが、地理の学習としての沖縄だけでなく、平和を考える土地としてのオキナワも学ぼうという学習をしました。
地図から入っていく沖縄学習
小学校4年生の社会科では、地域の学習と、全国の都道府県名や県庁所在地を覚える学習があり、子どもたちは地図を見て遊んだり、いろいろな地域を学習したりすることがあります。
小学生が使っている地図帳に掲載されている地図には、一般的な地図記号だけではなく、いろいろな絵記号が入っています。沖縄だとパイナップルやヤンバルクイナ、青森だとリンゴとかにんにくとか、そういうものが地図上に描かれています。それを見て子どもたちは楽しみながら学習をしていくのですが、そのときに平和に結びつけられないだろうか、と考えました。
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指導案A(小学4年生) 社会科・人権学習の指導略案
<単元名> 沖縄とオキナワを学ぼう
<単元の目標>
「関心・意欲・態度」【関心から自分のことへ】: 沖縄の自然や文化に出合い、米軍基地を抱える沖縄の安全の問題に関心を持つ。
「知識・理解・技能」【気づきからわかるへ】: 沖縄の米軍基地についての様々な意見を知り、異なる立場について理解する。 「思考・判断・表現」【考える・表現する】: 沖縄の米軍基地の様子と沖縄にくらす人々の生活について考えたことを表現できる。 <本時の展開>
*1 宮森小ジェット機墜落事件とは、1959年6月30日午前10時36分に嘉手納基地を飛び立った米軍のF100ジェット戦闘機がエンジン異常を起こし、パイロットはパラシュートで脱出、無人の機体は10時40分に現うるま市の宮森小学校手前の住宅街に墜落、エンジン部などが小学校の校舎に飛び込んだ事件。宮森小では2時限後のミルク給食の時間であり、教室にいる子も運動場にいる子もいた。小学生11名と住民6名が死亡、負傷者200名以上という大惨事になり、3教室が全焼、2教室が半焼であった
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指導案Aにあるように、
導入で白地図を見て県名をあてるクイズをしてから、地図を開かせます。沖縄県には離島がいくつもありますが、本島の地図からいろいろなものを見つけようとよびかけて、子どもたちに探させ、発表させます。 子どもたちは、琉球漆器を見つけたり、世界遺産のマークがあったり、いろいろなものを見つけ、地図にアメリカ軍用地という表示を見つけます。地図の凡例を見ると、青くて太い線で「アメリカ軍用地」という囲みがあります。実は、このアメリカ軍用地という凡例の表示は沖縄県以外にはありません。神奈川県や山口県にも基地はあるはずなのですが、 そこにはこういう表示がなく、沖縄のページにだけこの表示があります。そこに子どもたちが気付いてくれたらいいし、気付かなかったら、それに目を向けさせるということをして、沖縄にどれだけ軍用地や軍のための土地が多いのかということに目を向けさせます。
沖縄本島の真ん中より少し南辺りに飛行機のマークがあり、細長いひもみたいなかたちの軍用地があります。宜野湾市の普天間基地です。いま問題になっているところで、ここを返還して、基地は辺野古に持っていくという話になっています。辺野古の海に持っていって、埋め立てて基地をつくるんだよというような話をします。 軍用地のある生活、基地のある生活はどうだろう、基地の中に自分の畑があるからいつもゲートをくぐって行かなければいけない人の話とか、先祖代々のお墓が基地の中に取り込まれたので、墓参りが困る話とか、いろいろな話を子どもにします。 【「島唄」で沖縄戦を教える】 6月は沖縄慰霊の日にちなんで、THE BOOMの「島唄」という歌で沖縄戦を教える授業をしました。歌詞カードを配布して、歌詞の意味を説明をしていくというかたちで進めました。4年生なりに沖縄戦に目を向けさせるというのがねらいです。 感想を見ると、「もう二度と戦争はしてほしくないです」と書いている子や、いわゆる「集団自決」にふれている子、もし自分だったら死んでしまうのではなくて、降伏して出ていく、命を大切にしたいということを書いている子もいました。また、これからはウージ(サトウキビ)の下で死んでしまった人のことを思って「島唄」を歌おうと思いますと書いている子もいました。歌詞の意味を知れば、単に歌うだけではなく、歌詞の意味やその背景を考えながら歌いたいと思うようになるのです。 【日本国憲法について】
ゴールデンウィークになる前に、憲法記念日の話をします。小学校6年生の社会科には、憲法について学ぶページがありますが、指導案の対象は4年生ですから、教科書には憲法について何も出てきません。
以前小学2年生を担任したときにも、憲法というのはとても大事なものなのだよという話をしましたが、学年に応じて憲法の三原則を分かりやすいように言葉を換えて説明をします。こんなぐあいに説明しました。
(1)この国の主人公(いちばんえらい人)は、わたしたち一人一人です。<国民主権> (2)その一人一人をいちばん大切にします。<基本的人権の尊重>
(3)平和がいちばん。もめても戦争はしません。<平和主義>
憲法改正論議が表舞台に出て来たここ数年は、この学習をするときに、それに付け加えて、この憲法を変えようという人たちがいるけれど、君たちはどう思いますか、と問いかけて終わるようにしています。
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修学旅行を中心にした平和学習
勤務している小学校では修学旅行で広島に行っています。一泊二日で、1日目は宮島まで行って観光して広島市内に宿泊、2日目に平和学習を行うという日程です。実施日は例年、5月の終わりから6月の中頃にかけての時期です。被爆地広島を訪れる修学旅行を中心にして、平和学習を展開します。
修学旅行の現地学習によくあるパターンとしては、広い部屋に子どもたちがズラッと並んで、被爆体験をされた方が前に出て、マイクでお話をしてくださるという形式があります。体験された方のお話は大変貴重なのですが、お話してくださる方の人数は減少してきているし、大規模校だと講話を聞く会場を確保するのも困難です。また、お話の内容は貴重で素晴らしいものであっても、一対多数となると、どうしても一方的コミュニケーションになりがちであるという心配もあります。
そこで、2013年度はボランティアガイドの方をお願いしました。子どもたちの学習グループを10人程度で編成します。このグループにそれぞれ一人のガイドさんについてもらいます。室内で座って講話を聞くのではなく、平和公園を中心に案内していただくということにしました。ガイドの方は、市民ボランティアです。ガイドの中には被爆2世の方であったり、被爆体験のある方もおられますが、多くは、平和への思いを持つ一般市民の方です。広島には、ボランティアガイドの団体がいくつかあり、お願いするとグループ間でヨコの連携を取って、必要な人数(今回は15名)を確保してくださいました。 現地での平和学習の一環として、セレモニーをすることがよくあります。折り鶴を持っていって、「原爆の子の像」の前や、慰霊碑の前に行って、みんなで集まって歌を歌ったり、平和の誓いを読み上げたりするというようなパターンが、よくあります。2013年度はそのセレモニーも、学年みんなでやるのではなくて、グループごとにやるようにしました。 学年で修学旅行の学習計画を立てる
修学旅行は学校行事ですが、実施するのは学年単位なので、どうやって進めていこうかという相談を学年でします。現地での行動だけでなく、行くまでの事前の平和学習と、帰ってからの事後の学習の計画を立てます。今回は全体として大まかな方針は決めて、教材など細かいところはそれぞれの担任の特性を生かして進めるようにしました。
まず、学年5クラス共通で広島に向けての平和学習の導入は「つるにのって」というDVDを見せるところから始めました。そして、学習の最後には「総合」の学習活動として、どこかに向けて発信するようなことをしようということを決めました。いわば、入口と出口は学年全体でそろえたわけで、その間はそれぞれの担任でいろいろ工夫していこうということにしました。もちろん、資料などは提供し合い、情報は共有しながら、取捨選択して進めます。 私のクラスでは次のように進めました。 まず、事前学習のその前ですが、この年も憲法記念日にちなんで憲法の学習をしました。憲法改正案に関連して、国防軍、徴兵制などの話をしたとき、こんなことがありました。
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大人から見ると「そんな、アイドルのことなんて」というようなことかもしれませんが、その子にしたら、それがすごく切実なことだったのです。徴兵の話を聞いて、自分のお父さんが行ったら嫌だなとか、もうちょっと大きくなると、好きな人が行ったら嫌だなというのを感じることは大事なことでしょう。この場合、小学校6年生のその子なりに、自分の好きなアイドルが戦争に行くのは嫌だと感じた。これはある意味、非常に身近なところで、自分に引きつけて戦争というものを実感できたということです。そんな感じ方を大切にしていきたいと思います。
修学旅行に向けての事前学習で
ヒロシマ修学旅行に向けての平和学習の導入として「つるにのって」というビデオを見せました。ビデオを見せっぱなしにしないために、おさえどころを学年で確認してから見せています。見たあと、ヒロシマとカタカナ表記される被爆地としての広島の、原爆についての基礎知識を教えていきます。理解が難しいところもあるのですが、子どもたちは次第に、もっと知りたいという気持ちになってきたようです。
『さだ子と千羽づる』(SHANTI オーロラ自由アトリエ)という佐々木禎子さんの話が載っている薄い絵本がありますので、読み聞かせをしました。子どもたちはいろいろなことを考えています。ある子は、「資料館があるというのも同じことを繰り返さないようにするためにあるのだな、怖いというのも繰り返さないようにするための仕掛けなのだな」というようなことを書いています。だんだん修学旅行に向けての気持ちをつくっていくという段階です。
「折り鶴」という広島のことを題材にした歌を歌いました。音楽的な指導だけではなく、やはり歌詞を大事にするために、元の歌詞を自分で書いてみよう、そして意味を考えようという指導もしました。
『読み聞かせる戦争』(光文社)は朗読CDつきの本です。「ヒロシマの空」という詩の朗読を聞かせました。悲惨な描写も出てくるこの詩に出合った子どもたちの中には、恐怖感を持つ子もいました。
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『いわたくんちのおばあちゃん』という絵本を、保護者のボランティアグループの方が読み聞かせしてくださいました。 読み聞かせというと、小さい子を対象にするイメージがあるかもしれませんが、小学校の上の学年でも子どもたちは集中して聞けます。 豊かな表現力の読み手であれば、子どもが自分で読むのとはまた違う感動を受けることもあります。 |
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指導案B(6年生)
6年4組 総合的な学習 授業研に向けて
1 日時 2013年5月31日(金) 5校時
2 場所 6年4組教室
3 単元名 ヒロシマを考えよう
4 単元の目標
「関心・意欲・態度」【関心から自分のことへ】:広島に投下された原爆について関心を持ち、被爆者に共感できる。
「知識・理解・技能」【気づきからわかるへ】:被爆の実相を知り、原爆について戦争の歴史の中で客観的に理解する。 「思考・判断・表現」【考える・表現する】:原爆について調べて考えたことを表現できる。 5 趣旨
○ 本校では、広島方面の修学旅行を実施している。宿泊場所の検討は続け、変遷しているが、広島における平和学習を重点に置いた修学旅行、という点では長年継続している。また、6年生の1学期では、平和をテーマとして総合の単元を組むことも続いている。本学級の子どもたちも、修学旅行で広島を訪れることは自明のこととして受け入れ、平和への素直なねがいも持っている。しかし、社会問題への関心・意識は高いとは言えず、平和の問題についても自己の問題としてとらえたり、取り組むべき課題としてとらえている子は多くない。
○ 「平和」は兵庫県教育委員会が示す総合のテーマのひとつでもあり、教育基本法にてらしても、重要な学習課題である。しかし、その内容は指導要領に明示はされず、各教科においてもどう取り組み何を教えるかは明らかにされていない。
この単元では広島の原爆を学習のきっかけとし、広く戦争と平和について関心を持ち、平和について考える学習を行いたい。そして、やがて社会の担い手になったときに平和を実現する意欲を持つようになるための、基礎作りとしたい。
○ 平和教育は、平和的な手法で行われなければならない。教師の理想や思想のおしつけになってはならないし、公権力に都合のよい内容を刷り込むようなことをしてはならない。それは判断力を育てることにならないからである。子どもたちがそれぞれ自分の考えを持つために、一定の知識は必要なので、事実に出合わせて知識を供給することは行う。しかし、それは一定の価値観のわくに子どもをあてはめることではなく、知り得た事実からどう判断しどう考えるかは子どもに委ねたい。
6 指導の流れ
1 導入 「つるにのって」を視聴し、感想文を書く。 1時間
2 原爆を知る
原爆のおそろしさ、原爆投下の経緯を知る。 1時間
3 原爆を感じる
「さだ子と千羽づる」 読み聞かせを聞く。 1時間
詩「ヒロシマの空」の朗読を聴き、被爆者の心情に迫る。 1時間
4 原爆に向き合う
平和公園と碑の概要を知る。 1時間
自分なりの「平和の誓い」を考える。 …… 本時 1時間
5 原爆に出合う
広島現地で学び、グループセレモニーを行う。
6 原爆に取り組む
広島で得たことを伝える。
「わたしの平和の誓い」の練り直し。
7 本時のねらい
・平和への思いを言語化し、より具体的なものにしていく。
8 本時の展開
<本時の展開>
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このように学習した上で、修学旅行のグループ平和学習の計画を立てていきます。広島では平和公園を中心にグループ活動をします。時間は2時間あまりかけます。その間、自分たちはどこに行って何を見て何をしたいかについて、考え、相談し、計画にまとめていきます。そのときの資料に使うために、平和公園マップとおすすめの碑やポイントを説明
した小冊子をつくって配布し、あらましを説明しておきます。
グループごとに、意見を出し合い、所要時間も考えて、活動のコースを決めていきます。そのとき、平和公園のどこかでグループセレモニーをするように指示しておきます。ワークシートの書き込みを見ると、行きたい見たいポイントがたくさんあって、それを相談しながら削っていったのがわかります。 セレモニーについてもグループで話し合います。学年全体でセレモニーをすると、一部の子だけが主体的に動いて、ほかの子はそれに合わせたり、大勢の中の一人として声を出したりするという参加の仕方になります。グループセレモニーにすると、一人一役に近い形で、多くの子が主体的に関わることになります。司会進行、はじめや終わりの言葉、黙祷の合図、歌の指揮、平和メッセージの起草や読み上げ、折り鶴を用意して捧げるなどの役割を10人ほどのグループで分担して行うのです。プログラムや内容も自分たちで考えますので、お仕着せでない、自分たちが手作りしたセレモニーになります。そして、本番のための練習も、自分たちが納得いくまでやるということで、何度も繰り返しやり直していました。 修学旅行当日に向けて、このような活動をする中でだんだんヒロシマへの思いが高まってきます。ある子の表現を借りると「楽しみなのだけれども、楽しみだけではいけない気がする」という気分です。ヒロシマについての知識が増え、早く現地で見たり触れたりしたいという気持ちがつのって「楽しみ」になるのだけれど、知れば知るほど、その重大さ、深刻さもわかるので「楽しみだけではいけない」と思うようになります。 |
修学旅行当日
修学旅行当日、広島は雨でした。資料館のピロティでガイドさんとの対面。どんな方かはお出会いするまでわかりません。多くのガイドさんは、それぞれに「これだけは子どもたちに伝えたい」というポイントやテーマをお持ちです。子どもたちがグループで考えたプランとガイドさんの思いを突き合わせて、実際のコースを決めていきます。雨が降って動きにくかったけれども、碑やポイントを巡り、傘を差しながらグループでセレモニーをしたり、ガイドさんのお話を聞いたりしました。
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修学旅行の後で
修学旅行で、子どもたちはヒロシマを学んできました。今度は自分たちが伝える番です。何を伝えたいか、どんなことを伝えたいか、だれに伝えたいかということを考えていきます。まず、対象をはっきりさせるために、だれに伝えたいかを聞きました。
いちばん多いのは家族に伝えたい。次いで、来年修学旅行に行く後輩の5年生に伝えたい。それから、学校のみんなに伝えたいというのがあります。その他にいろいろあって、各国の偉い人にこれを伝えたら戦争なんかしなくなるだろうとか、世界中の人に伝えたいとか、いろいろスケールの大きな発想も出ました。スケールの大きい発想とは、学校から出て、学校の外に向かって表現するということです。そういう活動は子どもたちのやる気や手応えという面から、とてもよい取り組みです。しかし、身近な人に伝えるというのも、それはそれで、足が地についていて着実にできるのでいいと思います。 学年の先生方で相談して、1学期はもう終わりに近いので、2学期に保護者と5年生を対象に伝える活動をしようということにしました。 |
2学期の平和教育〜視野を広げる〜
2学期になってから、ヒロシマだけでなく、視野を広げて平和について学ぶ活動をしていきました。オキナワについて、DVDでドラマやドキュメンタリー番組を見せたり資料を提示してたりして、沖縄戦や基地の問題を考えさせました。また、地元の西宮の戦争をとりあげ、アニメの「火垂るの墓」を見せ、自主教材を使い、「平和マップ西宮」も使って学習しました。読み聞かせのグループのお母さんには、湾岸戦争を舞台にした絵本『カメラを食べたゾウ』を読んでもらいました。その夏の広島平和祈念式典の子ども代表による「平和の誓い」を分析する学習もしました。
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平和を伝える
10月の終わりに「5年生に伝える会」を行い、その反省を踏まえて「保護者に伝える会」をしました。ヒロシマ修学旅行で学んだことに、2学期の平和学習を積み重ねて、自分たちの平和への思いを発表しました。原爆のことはもちろん、沖縄戦の資料や基地問題の地図を用いたり、西宮の空襲を説明したり、平和憲法にも触れたりして、多様な視点から平和について発表しました。
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社会科の学習の中で
「伝える会」を行った頃は、社会科の日本の歴史では、まだ明治以前の学習をしていました。その後、明治維新から近代の歩みの学習をする中で、明治政府以降の日本の対外政策や、日本が軍国主義になっていったいきさつにふれ、歴史認識の面から平和教育をしていきました。また、3学期の社会科では日本国憲法について、前文、第9条などについて学習しました。
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