2.発達段階に応じた平和教育とは


(1)発達段階に応じたカリキュラム  
1)平和教育カリキュラムの必要性  
2)平和教育の学習目標

3)観点別に見た発達段階別の学習目標
  (2)平和教育における子どもの評価




(1)発達段階に応じたカリキュラム

子どもに育てる力
 
海外でも平和教育が実施されていますが、平和教育プログラムの教育目標として下記のものが挙げられています。

 【平和教育実践の教育目標】

育てたい子どもの素養や態度
   @態度的目標: 
      違いへの寛容=多文化主義、共存=協力、他者の尊敬=平等への感覚
      (平和)価値志向的態度、政治的有効性感覚、
      民主主義的信念
   A技能的目標: 紛争解決の技能、社会貢献の技能
      個人間のよい関係づくり
      和解=共感・許し
  B知識・理解的目標:他者についての豊富な情報

減らしたい子どもの素養や態度
      攻撃性、暴力、犯罪、偏見=ステレオタイプ、自民族中心主義


 注: "Peace Education Programs and the Evaluation" 2002を参考に作成。


 
1)平和教育カリキュラムの必要性

 これからの平和教育で育てる力として、平和な社会を形成する活動について、想像力と創造力で考える知識と態度と技能を、育成していきたいと思います。平和主体を育てる平和教育では、子どもたちが戦争などの平和問題を多面的・多角的に理解し、批判的に思考・判断できる力と、将来の市民として社会に参加する力を育てることが大切です。
 
 ただし、戦争への怒り(正義感)や戦争被害者への共感的理解が、小学生から中学生に上がる過程で低下傾向が見られました*1。その原因の一つとして、ヒロシマやオキナワについての平和教育が、小中高校生の成長と発達をあまり考慮せず、平和教育の方法がマン
ネリ化している、との指摘もあります*2。学年の上昇による子どもの発達に、つまり知識・理解の積み重ねや、思考力・判断力の発達や社会体験が広がっていくのに、平和教育の内容と方法が充分に対応しきれていないといえます。それゆえ、子どもの発達段階に応じて、順次高度化する平和教育カリキュラムを開発することが課題になっています。

 
広島市教育委員会が進める平和教育
 広島市教育委員会は、公立の小学校1年の児童から高等学校の生徒までを対象として、12年間を見通した「平和教育プログラム」を策定しました。さらに、児童・生徒一人一人に配る副読本を作成し、2013年度より広島市内の公立学校でプログラムの全面実施を行っています。この「平和教育プログラム」策定の基本方針の一つとして、「系統的な平和教育」が記載されていて、そこではプログラム策定の基本方針を以下のように記述しています。
○学習指導要領に基づき、小学校から高等学校まで各発達段階に即した目標及び主な内容を設定し、各教科等を関連づけた教材を作成する。
○原爆の惨禍の事実にとどまることなく、市民が平和への願いや希望をもち生活を営み、広島市の復興等に寄与してきた事実を併せた指導内容とする。
○体験的な学習や基礎的・基本的な知識及び技能を活用した学習や、児童生徒の興味・関心を生かした自主的、自発的な学習を重視する。(参加型学習など)
○持続可能な社会の実現に関わる学習として、小学校において、より良い社会の形成に参画する能力の基礎を培う活動、また、中・高等学校において、国際社会の諸課題を探究する活動を重視する*3
 平和教育プログラムでは、児童生徒が、被爆の実相などの事実を捉え、その事実を通して未来を志向し、平和で持続可能な社会の形成者になる事をめざします。そのために身に付ける必要がある知識や能力として、次のものを挙げています。

・被爆の実相や戦争等に関する知識
・課題を解決するための思考力・判断力・表現力
・自他を敬愛し、他者とよりよく関わる技能
・人や自然を尊重し、世界平和を愛する心情*4


 

 
2)平和教育の学習目標
 平和教育としての目標は、教育基本法第1条で「平和で民主的な国家及び社会の形成者」の育成として示されているとといえます。平和教育の実践は小中高の各学校段階で行われていますが、学校段階間で平和教育のつながり、例えばどんな学習目標でつながっているかが検討されることはほとんどありません。また、小中高の学校間で教師の人事異動は少なく、学校段階間で平和教育の進め方について情報を交換することもありません。このようなことを反省すると、平和教育で子どもたちに育成する学習目標を、子どもの発達段階に合わせて構成していくことが課題となってきます。

 小学校から高等学校までの子どもたちを4つ段階に分けてその発達を捉え、平和教育の内容と方法を系統的に構造化します。
 各発達段階の特性として、まず小学校前半を《基礎前期》と捉え、この段階の児童は具体的なものを使った思考が中心です。周りの人との人間関係が広がる発達段階にあり、社会性が育ち、集団生活に適応できるようになります。小学校後半を《基礎後期》と捉え、この時期の児童は、抽象的思考が始まり、論理的・抽象的な思考力が発達し始める段階にあります。抽象的な内容を理解し、論理的思考力ができはじめます。中学校を《充実期》と捉え、自我の形成が進み、自己主張が強くなります。抽象的・仮説的に思考する形式的操作が可能になってきます。中学生は小学校で学んだことをベースに、思考力を高めていく段階にあります。高等学校を《発展期》と捉えます。高校生は、論理的・抽象的思考力が発達し、個を自覚し、自他の区別を明確に意識し、自分の興味・関心に応じて自分なりの世界観を持つようになる発達段階にあります。 

 まず、発達段階別に平和教育の学習目標を提示します。学習目標のまとめには、広島市教育委員会による『広島市立学校 平和教育プログラム指導書』を参考にしました*5


 @小学校
 1・2・3年
 《小学校前期》
 
「戦争体験の実相に触れ、平和や生命の大切さに気付く」
○児童が絵本や副読本などの教材を通して、当時の戦災の様子や人々の気持ちに触れる。
○自分や家族、友だち、動植物など生命あるすべてを大切なものとして尊重し大事にする心情を育てる。命や家族の大切さ、戦争の恐さを理解できる学習内容とする。
 A小学校
 4・5・6年
 《小学校後期》
 
「戦争の実相を理解し、地域社会や日本の平和形成について考える」
○児童が地域にある戦争体験を聴いたり、副読本を活用したり、地域の戦争の実相を理解する。地域や日本の戦争の歴史について調べて発表するなどの学習を通して、戦争の実相について理解する*6
○平和形成の方法を考え、平和社会の形成に貢献した人々や団体に対する尊敬や感謝の念を深めることができる学習内容とする。
 B中学校
 1・2・3年
 《中学校期》
 
「戦争の歴史と現状について批判的に理解し、平和の形成方法について提案できる」
○中学校生徒が、戦争の実相や国際社会の平和問題について、平和で民主的な社会を形成するという観点から、教科書や副読本などを活用して、より良い平和な社会について構想する。
○解決すべき平和の課題を探究し、自分の考えをまとめるなどの学習を通して、世界平和に関わる問題について考察することができる学習内容とする。
  C高等学校
 1・2・3年
 《高等学校期》
 
「戦争の歴史と現状について多角的に理解し、平和で民主的な社会の形成方法について展望を持って提案できる」
○高校生徒が、社会背景や政治情勢等を踏まえ、戦争の歴史や、国際社会の平和課題について、批判的・多角的に理解する。
○望ましい紛争解決のあり方についての考察を深めるなどの学習を通して、平和の尊さや人間の尊厳についての認識を深め、より平和な社会の実現について展望することができる学習内容とする。

 

*1 村上登司文 2009、『戦後日本の平和教育の社会学的研究』学術出版会、315頁。
*2 村上登司文 2012、「沖縄の平和教育についての考察−小中学生の平和意識調査から」『広島平和科学』34号。
*3 広島市教育委員会 2013、「広島市立学校 平和教育プログラム指導資料」3頁。
*4 広島市教育委員会2013、3頁。
*5 広島市教育委員会2013。
*6 沖縄の平和教育指導の手引きには以下の記述がある。「沖縄戦を平和教育の教材として指導する場合、残虐な写真、フィルムなどを示し、人間の醜い面を強調しすぎて、幼児児童が人間不信に陥ることがないように、特に留意する必要がある。」(沖縄県教育委員会 1993、『平和教育指導の手引き』。)


 
 次に、子どもたちの発達段階別に、平和教育の学習目標をより詳しく構成していきます。ここでは平和教育実践で子どもに育成する資質や能力について、学習目標を観点別評価項目の分類で提示します。
平和教育における学習目標として、@関心・意欲・態度、A知識・理解・技能、B思考・判断・表現、の三つに分けて、各発達段階別に学習目標を示します。
 表3では「関心・意欲・態度」の分類から、表4では「知識・理解・技能」の分類から、表5では「思考・判断・表現」の分類から、平和教育の学習目標を発達段階別に示しています。平和教育において、道徳、各教科、総合的な学習、さらに学校行事を含めて多様な教育領域で行われる平和教育実践を関連づけるために、何を学習目標とするかについての検討・整理が必要です。それにより、平和教育のカリキュラムの系統化につなげることができます。
 各表にある学習目標は相互に関連しています。平和教育に関して、平和を志向する関心・意欲があるから知識・理解が深まっていくといえます。しかし、知識・理解が深まることで、平和問題への関心・意欲が強くなる面もあるでしょう。実際には、その両面があると考えられます。思考・判断・表現は近年重視されてきた学習目標であり、平和社会形成をめざす平和学習において特に重視すべき方向を示すといえます。
 観点別に整理した「関心・意欲・態度」、「知識・理解・技能」、「思考・判断・表現」における学習能力の育成は、相乗的に効果を示すとの前提の上で作表されています。つまり、三つの観点の学習目標は、同時並行的に目指されるとのイメージです。それでは、それぞれの学習目標について見ていきましょう。

 
  表3 「関心・意欲・態度」の学習目標 【関心から自分のことへ】
  関心 意欲 態度
小学校1・2・3年

 
平和について関心を持つ。
過去に日本であった戦争に関心を持つ。
仲間と同じでありたいと思う。
主張の違いを解決しようとする。
自分に自信を持つ。

いじめの被害者へ共感する。
小学校4・5・6年

 
地域に関係がある平和の問題に関心を持つ。
地域に関係する紛争や戦争に関心を持つ。
平等を求め、仲間と共に生きようとする。
主張の違いを仲間と協力して解決しようとする。
自分に自信を持ち、他者を受け入れる
暴力(戦争)の被害者へ共感する。
中学校1・2・3年


 
平和形成の活動について関心を持つ。
戦争の歴史や外国の紛争や戦争について関心を持つ。
異なる人々と公平に生きようとする
生徒間の主張の違いを,調整して解決しようとする。
自尊感情を高め、仲間への信頼感を高める
暴力(戦争)の被害者に共感し、平和の問題を自分のことに引き寄せる。
高等学校1・2・3年



 
平和形成の歴史や外国での平和形成について関心を持つ。
平和構築の歴史や外国の紛争解決について関心を持つ。
公正を求め、異なる人々と友好的な関係を築こうとする。
地域社会の紛争解決に貢献しようとする。
 
他者を尊重し、世界の多元性を受け入れる。

暴力(戦争)の被害者に共感し、平和の問題を自分が関与できるものと捉える。
注1:緑色の記入は平和問題や平和形成に関わる学習目標を、
黒色の記入は戦争・紛争・暴力に関わる学習目標を示している。
 
  表4 「知識・理解・技能」の学習目標 【気づきからわかるへ】
  知識 理解 技能
小学校1・2・3年

 
けんかやいじめが良くないことを知る。
戦争の恐さ・悲しさを知る。
命の大切さを理解する。

けんかやいじめが、戦争に重なることを理解する。
自分を好きになり、自分を大切にする技能。
知らないことを人に尋ねることができる。
小学校4・5・6年


 
平和に向けた社会の取り組みを理解する。
戦争などのいくつかの地域紛争があることを知る。
命の大切さや人権尊重の視点から戦争を理解する。
身近な暴力と紛争や戦争が関連することを理解する。
他者を好きになり、他者を大切にする技能。
調べたことを整理し、表現できる。

 
中学校1・2・3年


 
平和形成に向けた世界的な取組活動を知る。
国際的な紛争についてその関連性を知る。
 
「積極的平和」注1の視点から平和問題を理解する。
地域における紛争や戦争の歴史を理解する。
 
自他を敬愛し、他者とより良く関わる技能。
調べたことを整理して表現し、相手に伝えることができる。
高等学校1・2・3年



 
平和形成に向けた世界的な取組と、日本の役割を知る。
国際的な紛争の問題を社会科学的にそれらの関連性を知る。
「構造的暴力」の視点から平和問題を理解する。

地域の紛争や日本の戦争を歴史的流れの中で理解する。
異なる人々を尊重し、他者と協同的に関わる技能。
調べたことを整理し表現し、広く発信することができる。

 
注1:積極的平和については、2頁の脚注を参照のこと。
注2:緑色の記入は平和問題や平和形成に関わる学習目標を、
黒色の記入は戦争・紛争・暴力に関わる学習目標を示している。
 
 表5 「思考・判断・表現」の学習目標 【考える・表現する】
  思考 判断 表現
小学校1・2・3年

 
今が平和かどうかを考えられる。
ひいきや差別について考えることができる。
平和は良いことだと判断できる。
戦争は悪いことだと判断できる。
平和をイメージできる。

けんかの仲直りができる。
 
小学校4・5・6年


 
平和な社会について想像できる。
戦争について客観的に考えることができる。
 
多面的な平和について判断できる。
日本の過去の戦争体験を歴史的視点から判断できる。
平和な社会をイメージとして表現することができる。
日常の争いを暴力を使わずに解決できる。
 
中学校1・2・3年



 
平和な社会を構想できる。

戦争について客観的・批判的に分析することができる。
平和問題を「積極的平和」の視点から判断できる。
日本の戦争体験を加害と被害の双方向の視点から判断できる。
平和な社会をつくる案を考え、相手に伝えることができる。
地域社会の紛争の解決に非暴力的方法をとることができる。
高等学校1・2・3年



 
構想した平和な社会の実現方法を考えられる。

戦争について批判的に分析し、多角的に考察できる。
平和問題を「構造的暴力」の視点から判断できる。

日本の戦争体験を多角的な視点から判断できる。
 
平和な社会形成に希望を持ち、建設的な案を立て、発信することができる。
あらゆる社会的紛争の解決に非暴力的方法をとることができる。
注1:緑色の記入は平和問題や平和形成に関わる学習目標を、
黒色の記入は戦争・紛争・暴力に関わる学習目標を示している。
 
 表3から表5は、平和教育を実践する教師に向けて、平和教育における学習目標を整理したものです。高校では構造的暴力*7を取り扱っています。各表は、平和教育の授業案の作成や、教材選択や発問を考える参考とすることもできます。同時に、学習目標を到達目標とみなし、子どもたちの学習成果が学習目標に到達しているかをチェックし、教師による実践での指導を振り返る評価手段にすることができます。表中の各学習目標を、教師が指導の成果を振り返る「形成的評価」に利用することもできます。



 
 
 平和教育の学習目標を示しましたが、授業における観点別評価の規準は、教師の授業構想や授業実践における自らの指導を評価することにつなげることができます。
 平和教育は、平和的な社会の形成に向けた市民的態度を形成することが重要な目的です。その態度形成のプロセスを明らかにするためには、平和教育の効果を時系列的に評価する必要があります。平和教育の効果を評価するのであって個々の子どもの平和的態度を評価するものではないといえます。
 
平和教育実践を評価する方法

質問紙への回答/(教師、両親、研究者による)子どもの観察/
感想文の分析/作品の制作/プレゼンテーション/
平和に関連する公の統計(例えば、犯罪率;多国籍・民族間の結婚の割合)/
知識理解度のテスト/意識調査/子ども・大人へのインタビュー 
注: "Peace Education Programs: Evaluation" by Nevo and Brem in Peace Education,2002を参考に作成
 
 2011年度に、京都教育大学附属桃山小学校において広島平和学習の実施の事前と事後の2回に分けて、子どもたちの平和意識調査を行いました。質問文の一つでは、「あなたは被爆当時のようすや、その後の被爆者の苦しみについてどのように感じますか」とたずねました*1。図1によれば、事前調査では、「悲惨だ、人ごととは思えない怒りを感じる」を選択する児童が50%いました。事後調査ではそれを選択する児童が73%になり、大きく22ポイントも増えています。これにより、広島への原爆投下と被爆者への苦しみに対する共感的理解が、広島平和学習によって強い影響を受けていることがわかります。小学6年生において、広島平和学習により、被爆者などの戦争犠牲者に対する共感的理解の程度が上がっています。
 

 
  図1 被爆当時の様子やその後の被爆者の苦しみについてどのように感じるか
  
 日本は唯一の原爆被爆国ですが、附属桃小の児童は被爆体験の継承についてどのように思っているのでしょうか。図2によれば、被爆体験を伝えるのが大切と思う(「思う」+「少し思う」)児童が事前調査と事後調査ともに9割以上とほとんどです。特に、「思う」と回答した児童を見ると、事前調査(67%)に比べて、事後調査(86%)では19ポイントも増えています。このことから、附属桃小の小学6年生において、広島学習を行うことにより、被爆体験を世界の人々に伝えることが大切だと思う割合が増えています。
 

  図2 広島や長崎の被爆体験を世界の人々に伝えることは大切か
 

  
 附属桃小の事後調査で「思う」と答えた86%は、京都教育大学附属桃中の調査の79%よりも7ポイント高い値です。「2009附桃中2年」調査の調査対象生徒が、附属桃小の児童であった時には、広島への修学旅行はありませんでした。したがって、事後調査の児童の数値が高いのは、6年生の広島学習の効果が現れたものといえます*9
 

平和学習の成果についての評価

 前節では、子どもたちの発達段階的な視点から、平和教育の学習目標を観点別にまとめました。平和教育の学習目標を設定したので、その目標が教育実践によってどの程度達成できたかを評価する必要があります。平和教育の実践について何らかの評価が必要ですが、子どもの平和的な態度を教育効果として測ってもよいかは問題があります。ただし、学校教育で行われる以上、何らかの評価は不可欠で、平和教育でもその評価方法について常に考えられてきました。

 平和教育の実践は、@道徳、A国語や社会などの教科、B総合的な学習の時間、C行事などの特別活動などの時間を用いて行われています。したがって、平和教育を行う学習の評価は各教科・領域での評価に基づいて行われます。

 しかし、各教科・領域にはそれぞれの学習目標(めあて)と評価方法があります。@道徳の時間に教師は子どもの「道徳性」に評価点を付けないし、数値等による評価は行わないという共通理解があります。A教科の場合は、小学校1年生から高校3年生まで、通知表に学習成果として項目別に評価点が付けられます。B小学校3年から始まる「総合的な学習の時間」では、通知表に評価点を付けず、その評価欄に文章による記述を行います。観点に従って「こういう点が見られました」などとほめる点を挙げて記述することが多いとされます。また、総合学習では、子どもは学びを蓄積するので、学びの中で子どもがどのように変わるかを見るために、ポートフォリオ(作品を貯めていく)で評価します。C特別活動での評価も、評価点を付けず、通知表の評価欄には文で記述します。

 平和教育においては、ペーパーテストとして「定量的」に学習成果を見ていく評価方法が良いのかという問題があります。教師が設定した学習目標からはみ出すことも大切との考えもあります。平和教育においては、「エピソード型」評価により、子どもの成長を「定性的」に見ていくことも可能です。評価方法のそうした工夫を積み上げることで、教師側が平和教育実践で改善すべきところを見ていきます。
 
表現についての評価

 学力の観点別評価に関して、「関心・意欲・態度」は1990年辺りから重視されてきた「新しい学力観」に基づく学力です。次に「知識・理解」は従来の「習得型学力」を示しています。他方、「思考・判断・表現」は、知識・理解を基にして形成される「活用型学力」であり、よりレベルが高い学力とみなすことができます*10。その意味では、平和教育の学習目標において、関心・意欲・態度と、知識・理解・技能が基盤(土台)としてあり、その上により高い学習目標として、思考・判断・表現といった学力構造を想定することができます。

 平和学習の成果をどの様に評価すれば良いのでしょうか。学習目標によって評価方法も異なってきます。平和教育において、@目標が平和を志向する意欲や態度の形成であれば、従来の感想文や作文を用いて評価するのが適しています。A目標が表現力の育成であれば、
子どもの活動(パーフォーマンスやプレゼンテーション)を評価するのが適しているといえます*11。そうした二つのタイプの評価方法を下にまとめます。
 
 @感想文や作文による評価: 平和についての特定の題材について感想文や作文(レポートなど)を子どもに書かせ、それを評価します。子どもに感想・作文を書かせる評価方法は、現在まで学校で多く用いられてきました。平和教育実践による子どもの変化を評価するためには、実践の事前に子どもが書いた作文と、事後に子どもが書いた作文を比較することができます。
    
 A活動(パーフォーマンス・プレゼンテーション)の評価: 子どもたちが平和を題材に活動を行う場合、子どもはそれまでに学んだことを総合して表現することが求められます。平和教育の活動において、学習成果を評価するための「課題」にはどのようなものがよいといえるでしょうか。
 
 平和教育では、活動型評価も有用と思われます。活動型の発表には、子どもによるポスターや絵、詩や短歌や俳句、歌や動画、子どもが作ったパンフレットがあります。
 一方で、共同作業も大切で、みんなで協力して行う演劇、美術作品の制作、合唱曲など音楽の発表、ダンスや組み体操などがあります。

 
発信の方法

 平和主体を育てる平和教育では、子どもたちが平和問題を多面的に思考し、批判的に判断できる思考力を持って、市民として平和な社会の形成に参画する力を育てることが大切です。その意味で、平和な社会形成のために表現し発信する力を育成することは、平和教育において重要な学習目標となります。

 平和学習の中で発信する対象として、学校内部での発信と、外部に向けての発信の両方があります。学校内部での発信方法として、作品や新聞を作って学校内で展示する、学校の中で下級生に対する発表会で説明(プレゼン)*12することがあります。平和問題についての発信は、子どもたちにとっては社会参加の良い経験となります。しかし、場合によっては政治的すぎると捉えられることがあります。特に、学校外部へ発信を行う場合は、発信内容や方法を充分吟味して選択する必要があります。学校外部との無用な軋轢を避けるためには、充分な教育的配慮と事前の準備が必要といえます。
   

*7 暴力を行使する主体が存在する場合を物理的暴力と呼び、暴力の行為主体が存在しない場合の暴力を構造的暴力と呼ぶ。構造的暴力は、飢え・人種的抑圧・政治的迫害・生活不安を伴う失業などの増加を通じて現れる(ガルトゥング、ヨハン 1991、『構造的暴力と平和』中央大学現代政治学双書)。
*8 附属桃山小学校で、2011年度に調査を実施した。調査対象は6年生の2クラス。有効回答数は74名である(村上登司文 2013、「広島学習を行う平和教育の評価−附属桃山小学校の2011年度調査を事例として」『京都教育大学紀要』122号)。
*9 附属桃山中学校で2008年度に調査を実施した。調査対象は中学2年生で、有効回答数は132名である(村上登司文 2009「中学生の平和意識についての比較−上海、ホノルル、デンバー、京都の4都市の中学生の意識調査から」『広島平和科学』31号)。

*10 現行の「学校教育法」では学校教育の目標を次のように規定しています。
一 学校内外における社会的活動を促進し、自主、自律及び協同の精神、規範意識、公正な判断力並びに公共の精神に基づき主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと。
・・・中略・・・
三 我が国と郷土の現状と歴史について、正しい理解に導き、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する態度を養うとともに、進んで外国の文化の理解を通じて、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。[下線は筆者]
*11 田中耕治編 2009『よくわかる教育課程』ミネルバ書房、105頁。
*12 教科の社会での発信方法として、歴史学習で歴史新聞を作ったり、ゴミ処理のパンフレットを作ったりするなどの活動がある。