平和教育学のすすめ 

1.平和教育場面の分析
2.平和形成方法の教育論
3.平和教育学の研究課題



1.平和教育場面の分析

 
 平和教育の実践においては、平和題材について教育主体と客体の交渉(相互作用)がある。ただし、平和教育の主体と客体の相互作用という平和教育実践場面(例えば授業場面)の動的なプロセスは、今回は分析の対象としていない。

 本ホームページでは、教育の客体である子どもたちの平和意識を明らかにすることにより、平和教育の客体に対する教育的作用を推定した。けれども、主体から客体への短期的な影響のしくみを実証的に明らかにしたとはいえない。平和教育による短期的な影響を明らかにするためには、平和教育場面における平和教育の主体と客体の相互作用について計画的な実証的分析が必要といえよう。

 例えば、平和教育の授業や特別活動の事前と事後とで子どもに意識調査を行いその結果を比較するとか、平和博物館の入館者に対して入館前と入館後の意識調査を行い結果を比較する、などである。その際に平和教育の影響の持続性を測るために、平和教育の実施後に平和教育の客体に対して、再び調査するなどの研究方法が考えられよう。

 さらに、平和教育場面として、家庭教育やマスコミによる平和教育の展開を実証的に調べていく必要があろう。つまり、平和教育のプロセスの全体像を把握するためには、学校や平和博物館だけでなくそれ以外の親やマスメディアの教育作用を含めて、平和教育の広がりの全体像を明らかにすることが課題である。 

 

 平和教育の実践課題として、日本の平和教育の中心であった戦争についての教育に対して、新しい方法を試みながら今後も充分なエネルギーを注いでいくことが大切である。ただし、平和教育の実践課題として、従来の戦争体験継承による反戦平和教育だけでは不十分で、平和形成方法の教育が必要とされている。

 旧教育基本法に規定された「平和的な国家及び社会の形成者」を育てる教育をどのように行ってきたのか、そして新教育基本法で教育の目的と規定された「平和で民主的な国家及び社会の形成者」どう育成していくのかが重要な課題である。平和は大事であるが、平和のために子どもたちが何ができるかの方法を整理し、その方法の実行を支援する教育が必要となる。忘れてはならないのは、子どもたちの多くは、世の中の出来事を敏感に感じ、現実を知ろうとする関心が高く、平和のために何かをしたいと思っていることである。中学生の平和社会形成への貢献意欲は高く、社会が平和であるために何かしたいという調査回答が7割以上ある。

 被爆の実相を伝えるだけでは核兵器は廃絶できない。原爆の恐ろしさを知り、被爆者に同情することは、ごく当たり前の常識を持つ良心的な人であれば当然の行為である、といわれる。そこで平和教育の課題とされるのは、戦争被害者への共感と戦争についての知識が、平和社会の形成に想像力豊かに参加する態度と技能を子どもたちにどのように作っていくかである。平和問題が大きくて解決が困難なゆえに、子どもたちが平和社会を形成する活動から身を引いてしまうのではなく、平和問題の解決に具体的に参加するように支援する平和教育の実践が必要とされる。

 平和形成方法の教育(Education for Peace Builidng)とは、平和社会を形成する方法についての知識や、形成に必要な態度や技能の教育のことである。平和教育は、「広義の教育場面における平和題材に関する知識の習得と平和的態度や技能の形成」と規定できる。この規定にある「技能」とは、平和形成方法の技能であるといえよう。

  平和形成方法の教育で教えられる技能には、次の技能が含まれる。暴力的対立関係の中にあって、非暴力的に解決しようとする非暴力的解決能力や紛争後の和解能力がそれに該当する。そして、対立する両者の間に立って、両者を仲介する技能として仲介(仲裁)能力がある。対立や紛争がある状況の中で、平和形成・平和構築という活動へ参加するためには、問題解決への責任感や勇気、平和形成過程に忍耐強く関わる態度を支援する教育が必要となる。



 

 現在行われている平和教育をより広い地域で、より効果的に実践するために、平和教育の学問的裏付けを強化する必要性がある。平和教育学は、平和教育自体を研究対象として社会科学的に分析する学問といえる。言いかえれば、歴史学、比較教育学、社会学、心理学などの社会諸科学の研究方法を用いて、平和教育の理論と実践について研究し、平和教育実践を理論面で支援するための学問的知見を構造化する学問といえよう。

 外国の平和教育の理論と実践を理解するために、日本において平和教育学という学問的受け皿が必要である。また、日本の平和教育は世界に紹介するに足る充分な成果を上げているので、それを理論的に整理して世界に発信する役割が日本の平和教育学に期待される。

 次に、平和教育学ではカリキュラム開発を行い、教材を作成・整理する必要がある。子どもの発達段階に対応した平和教育の教育目標と教育内容を整理し、それに即してカリキュラムを開発していく。
 その際、戦争をなくすための教育が研究の中心となり、戦争についての教育の比較分析、戦争記憶を再活性化する方法とその成果や、戦争の残虐性を子どもに伝える方法とその後の心理的ケアなどが研究課題となる。
 さらに、未来志向の平和教育に発展させるために、平和社会形成の方法についての教育が重要な研究課題となる。平和教育学において、過去や現在の平和題材についてだけでなく、未来の平和形成のための教育についても研究対象とする。例えば、緊張や紛争が継続している地域社会や国際関係を、非暴力的な方法を用いて、より平和で公正な社会関係や国際関係に作りかえる方法についの教育も研究対象となる。

 平和のために子どもたちに習得させる知識、形成する態度や技能は広範囲であるが、平和教育学は平和教育の目標と課題について鳥瞰図を描きながら、平和教育を効率よく生産的に実施できるように、研究成果を積み上げカリキュラム開発を進めていくことが望まれる。



           平和教育学の研究課題例

@戦争体験を継承する教育実践の検証
A子どもたちの平和的資質や態度や技能(スキル)の形成方法
B戦争の非人間性を教える方法と子ども達の心のケアー方法
Cテロリズムとそれへの報復の悪循環を断つ方法
D平和な社会形成に参加する主体的学習の方法
E平和教育に対する偏向批判などの障害を克服する方法
F平和教育実践を進める社会的メカニズムの理論化
G平和教育の教師用ガイドブックと生徒用ワークブックの作成

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