第5回の平和教育授業研究会(ペグ)の様子

テーマ:イラク戦争を子どもに教えるには:メディアの利用



実施日時2003年6月28日(土)午後1時から5時
実施場所:F講義棟1階 F11教室
第5回ペグの内容

(1)参加者の自己紹介と導入
 ○アイスブレイキングを使用
   @握手 ゲーム
   A沈黙並び替えゲーム:「自宅からこの教室までの時間」など
   B自己紹介。今日の会に期待すること。
 ○「部屋の四隅」: Yes No どちらかといえばYes どちらかといえばNo
  質問例
納豆が好きだ。
金、銀、銅、アルミニウムのうち、最も好きなものは何ですか。
素足で歩くとした、どの上が最も快いと思いますか。大理石、草原、木の床、砂浜
私は自分が好きだ。
高校生は髪を染めてもかまわない。
小中学生は学校にいかなくてはならない。
子ども達(小学生・中学生)や市民が戦争を止めるために何かできると思うか。
イラク戦争が始まった時、あなたは無力感を感じたか。
日本がこれから戦争に巻き込まれるという不安があるか。
20年後の世界は現在より平和になっていると思いますか。
 
(2)イラク戦争を子どもたちに教える授業方法 
   平和な社会を目指すために、子どもに身近で興味のある題材「イラク戦争」                 
 ○イラク戦争の経緯
   配付資料:「イラク戦争の流れ」
 ○授業実践の紹介  
   配付資料:『教育、切り抜き速報版』より記事の紹介
@沖縄や海外への修学旅行の中止
A沖縄修学旅行の中止
B中高生からの中日新聞への電子メール
C家庭での取り上げ
D小学校での児童会の取り組み
E高校での総合学習
F小学校での親子学習会
G中学3年生での授業 分かれて討論
H小学6年生への意識アンケート
I映像の世界と現実の世界
J若者による自然体の非戦活動

───────────────────────────────
休憩
(3)懇談:平和教育について情報交換と実践交流

───────────────────────────────
(4)メディアの利用
  テレビの中の暴力(戦争)に、教師が対処する技能を高め能力感を広げる
 ○「メディアの利用」村上論を説明
   村上登司文 2003「新しい平和教育に向けて−メディアの利用」『開発教育』48号(掲載予定)
     参考文献:アンヌ・モレリ 2002『戦争プロパガンダ10の法則』草思社
 ○イラク戦争についての中学生新聞の利用:『朝日中学生ウィークリー』の利用

(5)イラク戦争に関するロールプレイ

 イラク戦争について様々な考えがあることを学ぶ。戦争報道に接する子どもたちの不安を実感し、子どもの無力感への対処方法を学びます。
  @アメリカ人(陸軍兵士、20歳代)
    「イラク戦争はテロを防ぐための正当な戦いであった」 
  Aイギリス市民(陸軍兵士の妻、30歳代)
    「イラク戦争は独裁制のフセイン体制を倒す解放戦争であった」
  B日本人生徒(中学生1年生)
    「戦争は無実の人を巻き込むだけで、平和的手段で解決すべきである」
  Cイラク市民(40歳代)
    「フセインの体制の崩壊により治安が乱れ生活が苦しくなった。異教徒の占領には反対である」
  Dパレスチナ人(30歳代)
    「アメリカはイスラエルのためと、石油の利権をねらって戦争を始めた」
  Eフランス市民(20歳代)
    「大量破壊兵器はまだ見つかっておらず、イラクに対する開戦は間違っていた」
  F日本人市民(50歳代)
    「日米安保条約があるのでアメリカに従う方がよい」
            各ロールの具体的内容

(6)まとめ
  今日の研究会を振り返って
            第5回ペグ参加者の感想

「イラク戦争に関するロールプレイ」各ロールの具体的内容

@アメリカ人(陸軍兵士、20歳代)
「イラク戦争はテロを防ぐための正当な戦いであった」 
◇自己紹介
 イラク戦争では戦車兵として闘い、現在はバグダッドに駐留している。
◇意見
 2001年9月11日のニューヨークとワシントンに対する同時多発テロの衝撃は忘れられない。二度とあのようなテロ事件を起こしてはならず、現在も世界のテロ組織に対する戦争が続いている。
 世界中のテロ組織とテロ支援国家は危険なので、軍事力により壊滅しなければならない。テロ支援国家に対しては、テロ事件が発生してから対応するのでは、犠牲者が出た後になるので遅すぎる。テロ支援国家であるイラクへの先制攻撃は必要であった。
 イラクは大量破壊兵器を隠し持っており、今後必ず見つかる。
 
Aイギリス市民(陸軍兵士の妻、30歳代)
「イラク戦争は独裁制のフセイン体制を倒す解放戦争であった」
◇自己紹介
 ロンドンに住んでいる。夫がイギリス陸軍の兵士でイラクに派遣されている。
◇意見
 侵略戦争には反対だが、今回の戦争はイラクの解放戦争である。ブレア首相が国民に説明したように、独裁体制からの開放のためにイラク攻撃が必要であった。独裁者により圧迫されたイラク市民には多大な苦痛があった。サダム・フセインの独裁制が倒れたのを多くのイラク市民が歓迎している。
 イラク戦争は、イラク政治を民主化する基盤をつくることになり、意義があった。
 国連が湾岸戦争以降12年間続けてきた武装解除の説得に、イラク政府は応じてこなかった。大量破壊兵器への不安などを考えると、イラク攻撃は必要であった。
 (第一次大戦以来の米英の同盟関係はイギリス外交の基本である。)
 
B日本人生徒(中学生1年生)
「戦争は無実の人を巻き込むだけで、平和的手段で解決すべきである」
◇自己紹介
 京都に住んでいる。中学校の授業で、イラク人から、生活、宗教、遊びなどについて話を聞いた。
◇意見
 世界中の多くの政治家や市民が戦争開始に反対していたのだから、米英はイラク戦争を開始すべきでなかった。(世界の人々が平和を望んだのに戦争になったので「無力感」を感じる。)
 攻撃は報復テロを引き起こし、それが戦争になる。報復は報復を呼び暴力の連鎖を引き起こしてしまう。今後イランとの戦争や、北朝鮮との戦争が起こるかもしれず、日本が戦争に巻き込まれてしまいそうで「とても不安」である。
 イラクの子どもも市民も自分たちと同じように生活をしており、戦争になることを望んでいなかった。誤爆や、攻撃により多くの市民が犠牲となるので反対である。
Cイラク市民(40歳代)
「フセインの体制の崩壊により治安が乱れ生活が苦しくなった。異教徒の占領には反対である」
◇自己紹介
 バクダットに住んでいる。米国軍の空爆により、その巻き添えに合い知人が亡くなった。
◇意見
 現在まで大量破壊兵器は見つかっておらず、イラクが大量破壊兵器を隠し持っているというのは、アメリカが戦争を始めるための言いがかりであった。
 アメリカが占領して以降、イラクは無法状態でバクダット市の治安も悪くなた。フセイン時代には外出しても命の危険はなかった。
 戦争により多くの市民が死傷した。私の知人が亡くなったが、彼の妻と4人の子どもはこれからどう生活していけばいいのか。
 米英軍が非合法的な占領を続けるならば、イラク市民は抵抗運動を続けるべきである。その場合は自爆攻撃があるかもしれない。
 
Dパレスチナ人(30歳代)
「アメリカはイスラエルのためと、石油の利権をねらって戦争を始めた」
◇自己紹介
 イスラエル占領下のヨルダン川西岸のパレスチナ自治区に住む。
◇意見
 イラクはイスラエルの占領により生じたパレスチナ難民を、長く支援してくれた良い国である。
 ユダヤ系アメリカ人が大きな政治的力を持つアメリカ合衆国は、イスラエルへの軍事的脅威であるイラクのフセイン体制を壊すのがイラク戦争を始める重要な目的であった。
 米英が油田地帯の制圧を急ぎ、石油省の建物の確保を重視するのは、埋蔵量世界第二位の石油の利権を自分たちの都合の良いようにしようとしている。
 アメリカがたくさんの核兵器を持ち、イスラエルも持っているのに、アラブの国は持ってはいけないと言うのは自分勝手すぎる。
 
Eフランス市民(20歳代)
「大量破壊兵器はまだ見つかっておらず、イラクに対する開戦は間違っていた」
◇自己紹介
 パリに住んでいる。パリでは大規模なイラク戦争反対のデモがあり、3回それに参加した。
◇意見
 イギリスのブレア首相は「フセイン政権が崩壊したとき、大量破壊兵器のありかはわかります」と演説したが、今もって発見されていないはおかしい。米英が開戦するために情報操作した疑いがある。
 フランスは、大量破壊兵器に対する国連の査察が続いている状況の中で、米英がイラク攻撃を始めることには反対であった。
 国連決議が無いまま開戦したことは、米英の自分勝手がすぎ、今回の米英がイラク戦争を行ったことによって、国連の存在意義(必要性)と信頼性が疑われることになった。
 ブッシュ大統領はイラク戦争が終結したといったが、米英の兵士に対する攻撃が続いており、現在も米英軍の死者が生じている。
 
F日本人市民(50歳代)
「日米安保条約があるのでアメリカに従う方がよい」
◇自己紹介
 東京に住んでいる。会社員である。
◇意見
 戦争には反対だが、米国が戦争するなら同盟国の一員として後押しする方がよい。
 日本は北朝鮮による拉致問題、不審船の問題、核開発問題など、危機的な状態にある。
 北朝鮮に対して、米国の軍事力がどれほどのけん制となるかはわからないが、今の日本にはそれに頼るしか方法はなさそうである。米英のイラク攻撃を支持する日本政府の立場に賛成する。
 日本のPKOをカンボジアやシリアのゴラン高原、東チモールなどで高く評価されているので、イラクの非戦闘地域に自衛隊を派遣することに賛成する。
                   


第5回ペグ参加者の感想

普段生徒側に立つことはほとんどないので生徒の気持ちがよくわかりました。平和教育には様々なアプローチがあることがよく理解できましたが、実践するとなると、やはり飽きの来ない仕掛けが、教室では必要だなと、感じました。公私ともに興味を持って少しずつ子どもに平和の大切さを伝えていければと思っています。また参加したいです。
まず、アイスブレーキングによる参加者の緊張のほぐし方やロールプレイによる参加型の学習というのは授業実践の方法論として非常に勉強になりました。しかし、やはり単に戦争体験を伝えていくとか、戦争反対と言うことだけを言うのではなくより上のステップとしてどう平和を子ども達に教えていくのかという話がまさにその通りだと聞いていました。
 あと教育に対する政治的規制という話をありがとうございました。やはりそういう規制があるというなら、こちらが実践の方法を変えながら子どもと関わっていかなくてはならないのですね。
戦争を語り継ぐ平和教育も大切だが、相手の立場を考えたさらに上の平和教育って言うのがなかなかイメージできなかったです。国際貢献と憲法9条の問題をどのように考えるか。憲法9条を今後どうしていけばいいのか。今回参加させていただいて、自分自身の課題として考えていきたいです。
平和についての学習がなかなか進まない状況があります。どうしても国際交流や環境など取り組みやすいものに流されてしまうことを反省しています。知的考察が冷静にできるような実践を行いたいと思います。自分としてロールプレイではなかなか整理して発言を行うことができず、ピントはずれなことを言う場面がありましたが、もう少し経験を積む必要があると思います。一方現実の話し合いの中ではピントはずれの発言が多く見られるのも事実です。話し合いの難しさを改めて感じました。
学校の現場では、政治色を含む学習はやはり難しいです。しかし、今世界の最も大きな話題となっていることから目を外している日本の教育。これも大きな間違いでしょう。どんどん「社会に対する自分の意見を持てなくなっている」現状が進む中、子ども達に話し合わせることは、何とか取り入れたいものです。戦争、とか平和とか、子ども達にとってはとても抽象的なものです。「現実をまず伝える」ということの大切さを感じました。
今日私が感じたのは現職の先生方はすごいなあと言うことです。やはりよく物事を見てよく考えて発言してはるので一言一言が私にとって重い発言だなと思いました。
 一番衝撃だったのは、平和学習への風当たりのキツさです。偏向教育といわれるとは聞いていたがそんなに現場で言われているものなのかと思い胸が苦しくなりました。いったい誰が戦争を教え、平和を教えるのか。学校という立場、教師という立場の難しさを実感させられました。
今回は時間通りにこれなかったのですが、最初に行われていたYes、Noの意見表明はおもしろそうでした。
 ロールプレイは毎回大変だと感じながら演っていますが、日本人中学生は議論にきちんと加わりにくいです。大学生ぐらいでないと感情論でしか発言できなさそうで。生徒の「日常の中の平和教育(意識)」を考えてみたいです。

教育社会学研究室へ