第2回の平和教育授業研究会(ペグ)の様子

テーマ:ロールプレイを使った参加型平和学習


実施日時2001年7月28日(土)午後2時から5時
実施場所:大学院棟4階 G2教室
第2回ペグの内容

(1)みなさんの近況紹介
 ○コミュニケーションゲーム: 
  @言葉を使わずに誕生日順に並ぶ
  A言葉を使わずにグループでパズルを解く (参考『いっしょに学ぼう』 p.75)
  B一人に対し二人が、三人が話しかけるゲーム(ゲーム名は「つみすぎ」。話しかける内容は「どんなときにうれしいか」「笑うか」「怒るか」「余暇の過ごし方」「今日の昼食は」
    →一人のお話を聞こう(ゲーム名は「魔法のマイクロフォン」)(参考『いっしょに学ぼう』 p.44とp.52)

(2)平和教育のワークショップ
 ○参加型のゲームをしよう。
  ロールプレイ:海外旅行で「言葉の暴力」を受けた時に対応するロールプレイを行う。
  いくつかの事例紹介:外国で中傷されたとき:侮蔑の言葉を浴びたとき
 ○平和な社会の形成方法を考えよう。「平和のためにできること」
  子ども達や学生達は平和のために何かをしたいとは思っている。
   投書(葉書書き)をしてみよう
   R大学での学生の「葉書書きレポート」の紹介: 資料「葉書宛先の集計」
   
(3)平和教育の模擬授業
  IJさんの授業案「北方領土問題の論争のロールプレイ」(社会科学習指導案)を実践してみよう
    ○北方領土問題のロールプレイの授業資料

(4)今後行う模擬授業の計画

第2回ペグ参加者の感想
参考資料
スーザン・ファウンテン『いっしょに学ぼう−学び方・教え方ハンドブック』国際理解教育・資料情報センター出版部、1994年。


外国の鉄道での「言葉の暴力」に対応する(ロールプレイをしてみよう)

○時間配分
差別偏見の説明 10分、ロールプレイ  10分を2回、意見交換と評価 15分

場面1:日本人学生が、ヨーロッパの鉄道でユーレイルパスを使って1等車を利用して旅行している。1等車のコンパートメント(個室)に乗っていた時に、後から途中乗車してきた乗客が、「鉄道1等車に高い金を払ったのにどうしてイエローモンキーと同じ部屋なのか」と車掌に言うのを聞いた場面。

車掌A: 新米の車掌であり乗客との論争は苦手である。乗客の意見や要望をできるだけ従い、穏健に解決を図ろうとする。

通りかかった別の車掌B: 人権意識が強く、乗客の不当な要求に対しては毅然とした態度に出る。
 外国からの観光客が、鉄道を多く利用しているのを好ましく思っている。

日本人学生A: 和を重んじる学生で、また気が弱く、争い事は極力避けようとする。

日本人学生B: 正義感の強い学生で、不当偏見や差別には断固として抗議する。

現地の途中下車してきた乗客A: 気が強く、自分の主張を通そうとする。自分中心主義で、アジア系の人を低く見ており、同席はいやである。アジア系やアフリカ系の移民が増えて街の雰囲気が変わり、また不法侵入者が増えていることを快く思っていない。

現地の途中下車してきた乗客B: 移民が起こす犯罪事件に対して非常に腹を立てており、外国人は好きではない。電車の中での道理は少しはわきまえている



北方領土のロールプレイの授業資料

授業目的 表1:ロールプレイの配役 表2:各役割の詳しい内容 
資料1:日本の教科書の記述 北方領土問題の参考資料

授業目的
 「国境とは、剃刀の刃である。その上に戦争と平和、諸国家の生死に関する現代の重大問題が乗っている」(英国ジョージ・カーゾン卿)第二次世界大戦までの期間において、領土は戦争の主要な争点だった。国境を1センチメートル拡大ないし防衛するために、国家は数十万の命を賭けて戦争を行う。愚かとえいば、これほどの愚行はない。(木村汎『日露国境交渉史』中公新書、1993年。)
 領土拡張政策は、日本の過去において多くの紛争・戦争の原因となってきた。日本の領土問題とその解決方法を考えることで、平和な国際関係の在り方を考えたい。
 領土問題は国によりその捉え方は異なり、同じ国民であっても、置かれた状況やその人の年齢や領土問題の解決方法が異なることが予想される。ロールプレイでは、領土問題を抱えた両国のいくつかの立場の人の意見を交換することにより、領土返還問題の論争の過程を体験し、解決の困難さを理解し、同時に解決への希望を探る(IJさんの授業案参照)。

    表1 ロールプレイの配役
配役 名前 年齢 性別 国籍 (下段)領土返還についての意見
@色丹島元住民 小泉重吉 78歳 男性 日本
「北方領土は日本固有の領土であり、早く返して欲しい」
A本州に住む中学3年生 本井絢子 15歳 女性 日本
「北方領土には関心はなく、帰ってきても来なくてもよい
B札幌住民中年 田中恵子 41歳 女性 日本
「北方領土は日本固有の領土であるが、隣国の日露は友好関係継続が重要」
C色丹島住民 ゲオルギー・カルバトフ 52歳 男性 ロシア
「北方領土はいずれもロシアの領土であり返還する必要はない」
D択捉島に住む中学3年生 ターニャ・グロムイコ 15歳 女性 ロシア
「歯舞と色丹は日本に返し、日本から必要な援助を得る
Eロシア人知日家 ウラジミール・クナーゼ 58歳 男性 ロシア
「北方領土解決はロシアの国益にかなう」

    表2 各役割の詳しい内容

@北方領土元住民
「北方領土は日本固有の領土であり、早く返して欲しい」
小泉重吉(78歳)

プロフィール
色丹島に自分を含めて3世代に渡って住んでおり、両親は色丹島で昆布漁を営んでいた。終戦時は12歳で、戦後進駐してきたソ連軍により色丹島から強制的に、北海道に避難させられた。現在は家族とともに根室市に住んでいる。
戦後、根室市で昆布漁をして生計を立ててきたが、歯舞諸島の水晶島付近でソ連に拿捕された経験を持つ。祖父母の墓が色丹島にあるが、日ソ関係の改善により墓参りはできるようになった。
 北方領土の返還運動に、戦後長きに渡って積極的に関わってきたが、未だ実現しないまま80歳近い高齢になってしまった。
意見
 北方領土は日本固有の領土であり、北方領土の返還は日ロ平和条約を締結する前提であると考える。北方領土返還をせず平和条約を締結して、無条件棚上すること絶対に避けるべきである。
 島の返還が一年後にダメならば5年後それでもダメなら、元住民が死んでも次の時代に必ず戻るという確信をもって、日本の領土となるまで運動を続けていこう。北方領土の返還運動で若い世代が、運動を引き継いでくれることを願っている。
A本州に住む日本人中学3年生
「北方領土には関心はなく、返ってきてもこなくてもよい」
本井絢子(15歳)

プロフィール

小学校4年で、日本の北端が択捉島であることを学び、同時に択捉島、国後島、歯舞諸島、色丹島は日本の領土であり、北方領土と呼ばれていることを学習した。中学校でも再び、北方領土について学び、北方領土返還運動が現在も続けられていることを学習した。
ただし、北方領土について学校で学習したが、50年以上前に選挙された話にはあまり興味や関心がない。北方領土返還は自分にとっては大きな問題ではなく、帰ってきても来なくてもよい。
意見
日本の領土は広い方が望ましいが領土のことで国同士が争うのはばかげている。
 北方領土のことは戦後50年以上も昔のことなのでよくわからない。日本に返ってきても来なくてもどちらでもよいと思っており、強い関心はない。
 大事なことは、戦争にならないようにロシアと日本が仲良くする事だと思っている
B札幌在住の中年
「北方領土は日本固有の領土であるが、日露隣国は友好関係継続が重要」
田中恵子(41歳)

プロフィール
戦後の1960年生まれであり、北方領土のことについては両親から話を聞いている。親戚の中に北方領土から強制退去させられた人がいる。両親たちから、ソ連が日ソ不可侵条約を一方的に破棄して、日本領土に侵攻したことへの怒りをたびたび聞いた。
 戦後、北方領土付近で日本漁船のだ補事件が随分長く続いた。北海道では、北方領土返還運動が盛んであり、その運動を好意的に見守ってきた。また北海道では、特に1983年に大韓航空機撃墜事件が起きたときは緊迫した空気が流れた。
意見
 択捉、国後島、北海道の一部たる歯舞諸島と色丹島は日本の領土である。それらは日本の主権下にあるものとして認められ、日本に返還されなければならない。
 北海道はソ連と領海を接しており、ソ連の軍事基地がサハリン(樺太)、択捉島にあるので、領土問題で、軍事的衝突になることだけは避けたいと思っている。領土問題や、漁業水域問題などが早く解決することを願っている。
C色丹島の住民
 「国後島、択捉島、歯舞諸島、色丹島はいずれもソ連の領土であり返還する必要はない」
ゲオルギー、カルバトフ(52歳)

プロフィール
 色丹島には自分の両親とともにやってきた。両親はすでに亡くなり色丹島に両親の墓がある。現在は漁業を営み、漁獲物は日本に売っている。
 色丹島の日本への返還が知人との間で話題になることが多い。また日ソ平和条約についての交渉のニュースが流れると、色丹島を退去しなくてはならないのではと非常に不安になる。色丹島は、自分が生まれ育った土地であり、退去により慣れ親しんだ生活の基盤が奪われるのはいやである。
日本のテレビ番組が視聴でき、子ども達は日本のアニメを好んでみている。
意見
 国後島、択捉島、歯舞諸島、色丹島はいずれも、第二次世界大戦後、ヤルタ、ポツダム両会談の決定によりソ連領となった。日本自身も、1951年のサンフランシスコ講和会議で、これらの諸島に対するソ連の領有権を認めている。
 北方領土の問題は、法的な立場からも、実際的な見地からも存在しない*1。北方領土問題は存在しないのであるから、ロシアは日本に北方領土を返還すべき必要はない。
D択捉島に住むロシア人中学3年生
「歯舞と色丹は日本に返し、日本から必要な援助を得る」
ターニャ、グロムイコ(15歳)

プロフィール
 第二次大戦後の1950年に、旧ソ連沿海州からソ連当局の指示で択捉島に移住したロシア系住民二人の間に生まれた子どもである。父親と母親は択捉島で結婚し、現在は中学生の自分と小学生の弟の二人の子どもがいる。ターニャは択捉島で生まれ育ち、現在は中学3年生である。
 学校では、第二次世界大戦後、千島列島はソ連の領土になったと学習した。
 1991年のソ連崩壊以降は、生活物資が極端に不足し、特に冬季は暖房用のエネルギーも不足していいる。そうしたロシア当局の経済政策に対して、ターニャの両親は強い不満を持っている。
 日本が経済的先進国であり、生活面で豊かな国であることは、日本と貿易をしているおじさんや、マスメディアによる情報で知っている。
意見
 平和条約締結後に歯舞・色丹の二島引き渡しを明記した1956年の「日ソ共同宣言」に基づき、北方領土問題を決着させるべきと思っている。
 サハリン州当局の経済政策を信頼しておらず、現状の経済的不況を脱するためには、日本からの経済援助が必要だと思っている。日本の経済協力で、日々の生活状況が早く改善すればよいと思っている。
 また、日本のおもちゃやテレビゲームなどで遊びたいと思っている
Eロシア人知日家
「北方領土問題の解決はロシアの国益にかなう。」
ウラジミール・クナーゼ(58歳)

プロフィール
 日本について大学で学んだ知日派学者であり、日本に数多く来日し、2年間滞在したこともある。ソ連の外交官として活躍し外務次官を経験し、駐韓大使なども歴任した。極東情勢に明るく、今後の日露関係の在り方についても見識を持っている。
 日本滞在経験から、日本国民が北方領土の問題を真剣に考えており、北方領土問題が日露平和条約締結の条件であることを十分理解している。ただし、四島一括の日本返還は、ロシアの国内情勢から考えて困難である友考える。
意見
 クナーゼは平和条約締結後に歯舞・色丹を日本に引き渡すとした1956年の日ソ共同宣言をソ連側が1960年に一方的に蹴った事実を「国際法違反」と思う。
 金銭面でも技術面でもロシアに必要なものは、最も近い国である日本に十分にある。今日、平和条約を結ぶことができれば大国の中で日本がロシアを助け、必要とする経済支援をしてくれる能力があると高く評価している。
 日本は一貫して、北方領土問題において切実に解決方法を探すことに関心を持っており、真剣な妥協へと進む用意もあると予測している。


    資料1 日本の教科書の記述
○小学校教科書での記述
国土のはしは、東は南鳥島、西は与那国島、南は沖の鳥島、北は択捉島だ。
・・・
北方領土: 日本の一を調べると、北のはしが択捉島であることがわかります。北海道の北東には、他に歯舞諸島・色丹島・国後島があります。
 これらの島々は、昔から日本の領土でしたが、第2次世界大戦後、ソビエト連邦(ソ連)に占領され、今は北方領土といわれています。日本は、ソ連を引きついだロシア連邦に、これらの島々を返すように強く求めていますが、まだ返されていません。
(『小学社会 4年下』大阪書籍、平成7年検定、76-77頁。)
○中学校教科書での記述
・・・しかし、歯舞諸島・色丹島・国後島・択捉島の北方領土は、日本固有の領土でありながら、第2次世界大戦後、ソ連に占領され、ソ連の解体後は、その返還を強くロシアに要求しています(109頁)。

北方領土: もともと日本の領土である歯舞諸島・色丹島・国後島・択捉島は、第2次世界大戦後、ソ連に占領されました。現在、日本はその返還を強くロシアに要求しています。これらの北方領土の近海は、こんぶなどがとれるよい漁場ですが、日本の漁船が出漁すると、領海を侵したとしてとらえられることがあります。しかし今では、これらの北方領土への墓参がみとめられるようになり、返還のための交渉も進めるよう求めています(249頁)。
(『中学社会 地理的分野』大阪書籍、平成8年検定)

北方領土問題の参考資料
 千島歯舞諸島居住者連盟『元島民による北方領土返還運動のあゆみ』平成9年。
 The Times ATLAS of the World ,1979.(北方領土はソビエト領となっている)
 『小学社会 4年下』大阪書籍、平成7年検定。
 『中学社会 地理的分野』大阪書籍、平成8年検定。
 木村汎『日露国境交渉史』中公新書、1993年。
 木村汎ほか『日・米・ロ新時代へのシナリオ』ダイヤモンド社、1993年。

第2回ペグ参加者の感想

 2つのロールプレイを体験してみての第一の感想は、自分が国と国との関係(歴史的、政治的など)について知らないということが多いということです。次に印象深かったのは、任された役割を演じる時、一生懸命「この人なら、何と言うだろう」と考えている自分があったということです。
 「人の立場に立つ」事を体験的に学ぶ場になるという、ロールプレイの効果を感じました。
 今回も、今まで知らなかった新しいことを学ぶ事ができました。偏見・差別についてのロールプレイングでは、そこで味わった感情が、小学生の頃体験した「いじめ」られた時のそれに似ていることに気づかされました。異文化コミュニケーションをはじめとして、コミュニケーションについての様々な感情・経験・事態などの状況を対象化する機会が、学校教育の場では未だ少ない中で、重要視すべき実践であると考えます。
 心理学的・社会学的な存在としての「人間」に迫っていく新しい教育の可能性を開くのが、平和教育の素晴らしさの一面であると思います。
 本日、第2回目の研究会に参加させていいただき、真に「楽しく」用意していただいた数々の参加型授業のプログラムを体験させていただきました。
 特に印象深かったのが、ロールプレイの授業でした。自分たちが役割を演じ合って、様々な考え方を理解するという授業形式には、これまでの一斉授業にはない新しい可能性が感じられました。
 実際の授業では、生徒全員に班ごとに分かれてする方法や、一部の生徒を選出し、他の生徒の前で行わせるという方法があると思います。
 後者の場合、その後パネルディスカッションにつなげていくという授業展開などが考えられそうです。

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