みなさんは、神戸の王子動物園に行ったことがありますか?  

こんな動物は見ましたか?



  動物と戦争のお話



 王子動物園の中には、こんなものがあるのです。
 これは動物慰霊碑といって、動物園で死んでしまった動物たちのために、1974年8月1日に建てられました。
動物が死ぬこともあるんですね。
動物は、なぜ死ぬんでしょうか?

年をとったから? 病気になったから? 事故にあったから?

 
そうですね。でも、ほかに、いまから60年とちょっとむかし、動物園の人が動物を死なせたこともあったんです。動物たちをかわいがって、世話をしている動物園の人が、その動物を死なせるなんて、なぜそんなことをしたのだと思いますか?

そう、そのころは戦争をしていたのですね。

でも、戦争は人間がすること。動物たちには関係ないでしょ。
でも、戦争のせいで、動物たちは死ななければならなかったのです。
そのお話をします。
 

 王子動物園は、その頃はまだ、いまのところにはなくて、諏訪山動物園といっていました。
 いまの元町から坂をあがっていくと、山の麓から公園になっています。
 諏訪山公園といって、見晴らしのいい公園です。ここがむかし、諏訪山動物園があったところです。1928年(昭和3年)にできました。
ほら、いまの写真で見ても、オリがあったようすが想像できるでしょ。


  そのころの日本は、よその国に戦争を仕掛けていました。隣近所の国だけじゃなくて、世界中のたくさんの国を相手に戦争をするようになります。動物たちも、戦争のためにがんばるよという宣伝をさせられたりしました。
 また、もうひとつの理由は、これです。
 これはある動物のおひるごはんです。
 何の動物かわかるかな。
 戦争の頃は、人間でも食べ物がなくて、大変でした。
動物たちに、こんなにたくさん食べさせるのは、むずかしくなっていたのです。
殺されなくても、えさが悪くなって病気になって死んでいった動物もたくさんいました。
残念なことですが、エサの節約のために、おとなしい動物を殺してしまった例もあります。



 
さて、殺されたのは、動物園の動物だけでしょうか。

 そうではありません。

 馬は、戦争に使うために、たくさん戦場に送られました。
戦争が終わって、帰ってきた馬の話は伝わっていません。
街にいる、野良犬や野良猫、池や湖にやってくる渡り鳥たちも殺されました。
それだけでなく、家族のようにかわいがっている猫や犬たちも、集められ、殺されました。




こんな回覧板がまわってきて、猫や犬を連れてきなさいと命令されたのです。            


 それらの動物たちは、毛皮をとられて、戦争をする兵隊の着るものに使われたと考えられています。飛行機のパイロットは高いところを飛ぶので、とても寒いのです。
その寒さを防ぐ手袋やフードやジャンバーのために
犬や猫やウサギなどの毛皮が使われたと言われています。



また、こんな話も伝わっています。





 空襲があって、防空壕に逃げました。
 飼っている犬が死んだらかわいそうなので、抱いて、一緒に防空壕に入りました。 
 そうしたら、そこに逃げてきていた近所の人たちに、
「この非国民! 犬なんか抱いて、なにごとだ。防空壕を出ていけ!」と、
追い出されたそうです。

 
そう言った人も、平和なときだったら、
かわいい犬だね、と言ってあたまをなでてくれたかもしれません。
でも、戦争の時は、そうやって小さな命をかわいがったり、
大事にしたりということができなくなってしまうのです。
戦争って、兵隊さんだけがするんじゃないんですね。

そんな風になる戦争ってどうおもいますか?
 いやですよね。
 台風や地震は、いやだっていっても、いつかくるかもしれません。
 
でも、戦争は、みんなが絶対いやだ、やめようね
って約束したらおきないのです

 でもでも、まあ戦争になってもいいや、戦争になってもしょうがない、
と思っていると、いつか戦争になってしまうかもしれません。
 戦争になると、まっさきにひどいめにあうのは、弱い者。
モノも言えない動物たちや、みんなのような子どもたちです。
 ずっと、みんなが平和で、
動物園も楽しい動物園であるように、
みんなで平和な世の中をつくっていきましょうね。



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これは、アムールトラのごはんです。

これは、ホッキョクグマ。

これは、チンパンジーの一日のごはん。

ぞうは、こんなに食べるんですね。

戦争が激しくなってくると、もしも動物園が攻撃されたらどうなるだろうと考える人が出てきました。


 動物のオリが壊れて猛獣が逃げ出したら、人間を襲うかもしれない。

 そうなったら大変だ。

 動物よりも人間の命の方が大事だから、動物が暴れたりしないように、今のうちに動物には死んでもらわなければならない。
そういうことで、どうぶつえんの猛獣たちを殺しなさいという命令が出ました。

 動物園の人たちは、みんな動物が大好きですから殺したくはありませんでした。でも、そのころは命令に逆って戦争に協力しないとひどいめにあわされるので、しかたなく、動物たちを殺していったのです。

 王子動物園ではクマ、ライオン、トラ、ヒョウ、ホッキョクグマ、オオカミ、ハイエナ、ニシキヘビなどが命令で殺されました。ゾウは、その前に病気で死んでいたので、入っていません。

 王子動物園だけでなく、東京の上野動物園でも、名古屋の東山動物園でも、大阪の天王寺動物園でも、大きな町の動物園では、どこでも、同じように動物たちを殺さなければなりませんでした。みなさんの中にも、「かわいそうなぞう」という絵本を読んだり、勉強したりした人があるかもしれません。あのお話ですね。
 西宮にあった阪神パークでは、動物たちを殺しませんでした。それは、戦争が激しくなる前に、動物たちをよその動物園に移して、動物園をやめてしまったからです。


 戦争になると、人間だって死んでしまうんだから、動物が死ぬのはしょうがない。
 そう思いますか?
 動物が死ぬのはかわいそうだけど、人間を守るためだから、しょうがない。
 そう思いますか?


 さっき、「かわいそうなぞう」のことを言いましたね。あの絵本には、少し、本当とはちがうところがあります。

 まず、第1に、動物たちが殺されたのは、ほんとうに敵の飛行機が町の上にやってきて、爆弾を落とすようになる、ずっと前のことでした。そのころは、偉い人たちは、「日本は神の国で強いんだからだいじょうぶ!」と言っていたのです。
 つぎに、ほんとうに爆弾が動物たちのオリに落ちたら、どうなるでしょう。爆弾でオリだけが壊れて、動物たちは無傷。そんなことってあるでしょうか? 
 爆弾が落ちたら、かわいそうですが、動物たちも死んでしまいます。実際、日本中の町がほとんど空襲でやられるようになっても、動物園から動物が逃げ出したことはありませんでした。

 
つまり、ほんとうは、「人間の命を守るために動物を殺す」というのは、嘘の理由なのです。
 
 国中の人がみんな、必死になって戦争のためにがんばるように、「動物をかわいがるなんてあまったれたことを言っていてはいけない」「動物だって犠牲になっているんだから、人間ならもっとがんばれ」というために、動物たちは殺されたのです。