教育社会学とは

 教育社会学は、一言でいえば、「教育を研究対象として、社会学的に研究する学問領域」といえます。それを詳しく述べれば以下のようになります。

 教育社会学では、対象である教育を社会事象と見て研究します。つまり、@教師や親と子どもの相互行為が行われる社会関係としての教育(社会としての教育)、また教育と社会全体との関係に着目します。そこでは、A教育に対する社会からの影響(社会的規定)、ならびにB教育の社会に及ぼす影響(社会的機能)を明らかにしようとします。

 社会学的に研究する視点とは、デュルケムの「社会学的精神」に見られる社会学固有の見方に立ちます。つまり、文化的相対主義、実証主義、構造−機能主義などといわれる視点から対象にアプローチします。

 文化的相対主義とは、善悪の価値や評価は社会の中で相対的に決まるとの考えに立ち、それぞれの文化に優劣があるとはしません。できるだけ研究する側の価値判断を排して、研究の対象を理解しようと努めます。実証主義とは、研究対象における社会的要因間の因果関係を説明する仮説を立て、データを調査収集することにより仮説を検証しようとします。構造機能主義とは、教育事象の内部構造や社会全体との関係を分析することに関心を持ち、内部要因間あるいは外部組織との間における機能的関連を明らかにしようとします。

 教育社会学では、そうした研究視点から、社会事象としての広義の教育における個々の教育的事実を明かにすることに興味を持ちます。例えば、家庭教育におけるしつけ、学校の授業における教師と子どもの関係、社会教育施設としての図書館や博物館など、個々の教育事象を取りあげます。また、学歴社会、情報化社会、少子化社会などの社会構造と教育との関係を扱います。さらに、過度の受験競争、いじめ、不登校・引きこもり、少年犯罪などの教育問題(教育病理)も研究対象となります。

 このように教育社会学では、研究対象を狭く授業場面や学校教育に限定せず、学校外の教育をも含む幅広い様々な教育事象を研究対象としています。

 つまり、教育社会学では、研究の視点としてはできるだけ価値判断を排して事実の認識と分析に研究を限定しながらも、現実を照らす「サーチライト」として社会学独自の概念や理論を用いることによって、社会事象としての教育を客観的・実証的に解釈・理解し見通そう(鳥瞰しよう)とする研究領域です。

 そうした教育社会学の研究成果を学習することにより、社会という広い地平から教育を見直して学校を眺望する力を養成し、またデータに基づいた客観的なアプローチにより教育問題を正確に理解し、問題の解決能力の基礎を養成しようとします。学生、院生のみなさんは教育社会学の文献を読むことと、自分が関心ある教育テーマを社会学的に探求することが求められています。


教職科目「教育社会学」で示した参考文献


2010年代後半
NHK放送文化研究所 2020『現代日本人の意識構造(第九版)』(NHKブックス)
岩永雅也 2019『教育社会学概論』放送大学教育振興会
日本教育社会学会編 2018『教育社会学事典』丸善出版
ジェレミー・ベイレンソン 2018『VRは脳をどう変えるか? 仮想現実の心理学』文藝春秋
荒牧重人ほか編著 2017『外国人の子ども白書:権利・貧困・教育・文化・国籍と共生の視点から』明石書店
中川一史・苑復傑 2017『教育のためのICT活用』(放送大学教材)
本間基照 2016『学校・大学リスクマネジメントの実践』同文舘出版
ユヴァル・ノア・ハラリ著 2016『サピエンス全史―文明の構造と人類の幸福』河出書房新社
国立教育政策研究所編 2016『資質・能力[理論編] 国研ライブラリー』東洋巻出版社
NHK放送文化研究所 2015『現代日本人の意識構造(第八版)』(NHKブックス)
厚生労働省 2015「ひとり親家庭等の現状について」(HP「ひとり親課程・多子世帯等の自立支援に関する関係府
省会議」資料3)
菊池省三・吉崎エイジーニョ 2015『甦る教室 : 学級崩壊立て直し請負人』(新潮文庫)
保坂渉・池谷孝司 2015『子どもの貧困連鎖』 (新潮文庫)
酒井聡樹 2015『これから論文を書く若者のために』共立出版
NHK放送文化研究所 2015『現代日本人の意識構造(第八版)』NHKブックス
村上登司文 2015『平和教育の授業づくり:戦争を知らない教師が平和教育をどう行えばよいか』京都教育大学

2010年代前半
湯沢雍彦(ゆざわやすひこ)他 2014『データで読む平成期の家族問題 四半世紀で昭和とどう変わったか』(朝日選書
有田芳生 2013『ヘイトスピーチとたたかう 日本版排外主義批判』岩波書店
酒井朗他編著 2012『よくわかる教育社会学』ミネルバ書房
岩村暢子 2012『家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇』新潮社文庫
堀薫夫編著 2012『教育老年学と高齢者学習』学文社
国立女性教育会館 2012『男女共同参画統計データブック2012』ぎょうせい
坂井朗他編著 2012『よくわかる教育社会学』ミネルバ書房
中岡新太郎 2011『若者の気分 シャカイ系の想像力』岩波書店
山崎博敏 2011『学級規模と指導方法の社会学』東新堂
瀬沼克彰 2011『生涯現役の社会参加活動』日本地域社会研究所
上野千鶴子 2011『おひとりさまの老後』文春文庫
日本国際理解教育学会 2010『グローバル時代の国際理解教育』明石書店
OECD教育研究革新センター 2011『教育のトレンド2−図表に見る世界の潮流と教育の課題』明石書店
小川克彦 2011『つながり進化論−ネット世代はなぜリア充を求めるのか』中公新書
北澤毅編著 2011『「教育」を社会学する』学文社
近藤昭一 2011『モバイル社会を生きる子どもたち:「ケータイ」世代の教育と子育て』時事通信社
加野芳正 2011『なぜ、人は平気で「いじめ」をするのか?』日本図書センター
本田由紀 2011『若者の気分:学校の「空気」』岩波書店
竹内久顕他 2011『平和教育を問い直す』法律文化社
山内乾史 2010『国際教育協力の社会学』ミネルヴァ書房
NHK放送文化研究所 2010『現代日本人の意識構造(第七版)』NHKブックス
岩村暢子 2010『家族の勝手でしょ!写真274枚で見る食卓の喜劇』新潮社
川村茂雄 2010『日本の学級集団と学級経営』図書文化
サラ・コナリほか 2010『関係性の学び方:「学び」のコミュニティとサービスラーニング』晃洋書房
日本国際理解教育学会 2010『グローバル時代の国際理解教育』明石書店

2000年代後半
杉森滉一編 2009『社会の変化と統計情報』北海道大学出版会
三村忠志ほか 2009『デジタルネイティブ−次世代を変える若者たちの肖像』NHK出版
加納寛子 2009『即レス症候群の子どもたち』日本標準村上登司文 2009『戦後日本の平和教育の社会学的研究』学術出版会加納寛子 2009『即レス症候群の子どもたち ケータイ・ネット指導の進め方』日本標準
志水宏吉編 2009『「力のある学校」の探求』大阪大学出版会
原清治他編著 2008『教育の比較社会学』学文社
北島圭 2009『ネット社会は人間に幸福をもたらしたか 暴走するネット社会』花伝社
荻上チキ 2008『ネットいじめ−ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』PHP選書
山脇由貴子 2008『モンスターペアレントの正体−クレーマー化する親たち』中央法規
浅井春夫他編 2008『子どもの貧困 : 子ども時代のしあわせ平等のために』明石書店
湯沢雍彦他 2008『データで読む家族問題』日本放送出版協会
M.アシュフォード著 2008『平和へのアクション101+2: 戦争やテロのない世界の実現に向けて』かもがわ出版
山脇由貴子 2008『モンスターペアレントの正体−クレーマー化する親たち』中央法規
浅井春夫他編 2008『子どもの貧困 : 子ども時代のしあわせ平等のために』明石書店
小谷川元一 2007『いじめ・学級崩壊 : 教師と親の「共育」で防ぐ』大修館書店
嶺井正也編著 2007『グローバル化と学校教育』八千代出版
加野芳正他編著 2007『新説教育社会学』玉川大学出版部
油布佐和子編著 2007『転換期の教師』放送大学教育振興会
野村総合研究所2015年プロジェクトチーム 2007『2015年の日本』東洋経済新報社
小松太郎 2006『教育で平和をつくる−国際教育協力のしごと』岩波ジュニア新書
本田由紀他 2006『「ニート」て言うな!』光文社新書
松田美佐他編 2006『「ケータイのある風景−テクノロジーの日常化を考える』北大路書房
吉川徹 2006『学歴と格差・不平等 : 成熟する日本型学歴社会』東京大学出版会
二宮皓編著 2006『世界の学校−教育制度から日常の学校風景まで』学事出版
住田正樹編著 2005『教育文化論』放送大学教育振興会
千石保 2005『日本の女子中高生』NHKブックス

2000年代前半
村上登司文 2004「平和教育−平和を創る人を育てる」『いま平和とは何か−平和学の理論と実践』法律文化社
苅谷剛彦, 志水宏吉編 2004『学力の社会学 : 調査が示す学力の変化と学習の課題』岩波書店
NHK放送文化研究所 2004『現代日本人の意識構造(第六版)』NHKブックス
原清治他編著 2004『教育の比較社会学』学文社
岩永雅也・稲垣恭子編著 2003『教育社会学』放送大学教育振興会
苅谷剛彦・志水宏吉編著 2003『学校臨床心理学−「教育問題」をどう考えるか』放送大学教育振興会
門脇厚司編著 2002『学校の社会力』朝日新聞社
武田徹 2002『若者はなぜ「繋がり」たがるのか』PHP研究所
千石保 2001『新エゴイズムの若者たち−自己決定主義という価値観』PHP新書
臼井博 2001『アメリカの学校文化日本の学校文化』金子書房
小此木啓吾 2001『「ケータイ・ネット人間」の精神分析』飛鳥新社
大津和子・溝上泰編 2000『 国際理解、重要用語300の基礎知識』明治図書
門脇厚司・久冨善之編 2000『現在の子どもがわかる本』学事出版
苅谷剛彦他 2000『教育の社会学』有斐閣アルマ


1990年代
門脇厚司 1999『子どもの社会力』岩波新書
栖原暁 1996『アジア人留学生の壁』日本放送出版協会
堺屋太一 1995『「大変」な時代』講談社
久武綾子他 1997『家族データブック』有斐閣
大橋照枝 1993『未婚化の社会学』NHKブックス
日本子ども社会学会編 1999『いま、子ども社会に何がおこっているか』北大路書房
祐宗省三編 1996『子ども「大変な時代」』教育開発研究所
尾木直樹 1999『「学級崩壊」をどうみるか』NHKブックス
片岡徳雄 1994『個性と教育』小学館
志水宏吉 1991『よみがえれ公立中学』有信堂
森田洋司・清水賢二 1994『いじめ−教室の病い』金子書房

1970年代
デュルケーム 1978『社会学的方法の規準』岩波文庫
城山三郎 1978『素直な戦士たち』新潮社
イヴァン・リッチ 1977『脱学校の社会』東京創元社

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