7.参考になる文献の紹介 
 

戦争体験を継承し多面的に戦争を見る
戦争の醜さがわかり平和への思いを深める
読み聞かせや投げ込み教材として授業で使える

 ■文献選定の視点(村上登司文)
 平和教育の実践に役立ちそうな文献を選びました。過去の戦争体験の継承を大切にし、戦争を多面的に見る力を養い、今の平和の問題に対応できる力を育てることを目指しています。興味・関心がある文献をどれからでもお読み下さい。
 村上が紹介する文献について、参考までに各文献の関連と流れについて示します。
 平和教育を現代化する視点を、@『平和教育を問い直す』で考えます。平和の対立物の戦争が起こる条件を、A『戦争の条件』で知り、戦争をやめさせたり始めないために、B『平和は闘いだ』といえます。
 日本が行った戦争で人命を無駄に消耗する様子はマンガの、C『総員玉砕せよ!』でよくわかり、戦争体験者の声は、D『戦争 体験者の貴重な証言』に記録されています。地元地域(例えば京都)の戦争について、E『語りつぐ京都の戦争と平和』で昔と今がつながります。日本を戦争被害国としてだけ教えるのではなく、F『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』が参考になります。
 平和教育は過去を学ぶだけでは充分でなく、日本が、G『教育で平和をつくる』ことが求められます。戦争が、H『きみには関係ないこと』ですか?と子どもたちに問いかけて、関心ある文献を読んでもらいます。子どもの発達段階に合わせて平和教育の内容と方法を工夫し、I『広島市立学校 平和教育プログラム指導資料』を参考にして、平和教育のカリキュラムを考えましょう。

@竹内久顕編著
『平和教育を問い直す』法律文化社、2011
 平和教育における4つの乖離を指摘しています。過去の戦争を多く教えるが今の戦争を考えるのにあまり役に立てない乖離、遠くの戦争の暴力を学ぶが身近な暴力への対処がない乖離、平和の創造について理念を述べるが現実を変える難しさとの乖離、反戦平和を願う教育方法と平和を創る方法を教える方法の乖離です。現在の平和教育への課題を明らかにし、これからの方向を考えるのに役立ちます。
 A藤原帰一
『戦争の条件』集英社新書、2013
 戦争はどのような状況で起こるのでしょうか。日本の平和主義の立場からは、戦争が避けられない条件を考えること自体に抵抗があると言えましょう。しかし、戦争を避けるためには、避けられない条件や、戦争が起こる条件を冷静に考える必要があります。どのような状況であれば武力が国際社会で容認されるのか、戦争の実態と可能性を考えます。戦争が行われる条件を知らないと、戦争を防ぐ論争に加われないと言えます。
 
B爆笑問題+伊勢崎賢治
『平和は闘いだ NHK爆笑問題のニッポンの教養』講談社、2008
 お笑いコンビの爆笑問題と、内戦地で平和調停交渉を進めた伊勢崎賢治との対話です。伊勢崎は内戦地で国連軍をバックに双方の利害を調整して武装解除をまとめてきました。平和を守るためにテロと戦うスローガンに勝つことは難しいといいます。平和を主張する側には、テロとの戦いを進める側ほどの魅力がありません。平和を愛する側は、軍事的解決を図る側よりもしたたかに(平和的)闘いを進め、武力に頼る側に対して勝たなくてはなりません。
C水木しげる
『総員玉砕せよ!』講談社文庫、1995
 戦場を体験した漫画家の水木しげるが描いた戦記物シリーズの一つで、傑作といえます。太平洋戦争末期の1944年に、500名の日本軍部隊が南太平洋のパプアニューギニアそばのニューブリテン島の守備に就いて500名全員が玉砕(全滅)するまでが描かれます。のんびりとした南国の島を舞台に、米軍との戦闘、空襲や地上戦による殺戮と破壊が描かれます。前線で日本軍が兵を粗末に扱う様子が生々しく描かれています。マンガ故に戦場の様子と悲しさがリアルに伝わってきます。水木氏は2015年に93歳で亡くなりました。
D朝日新聞テーマ談話室編
『戦争 体験者の貴重な証言』朝日文庫(全三冊)、1990
 過去の戦争について直接聞くことが難しくなりました。1980年代後半に、戦争体験者の証言を集める作業が盛んに行われました。朝日新聞紙面のテーマ談話室の「戦争」シリーズは、1986年7月から14か月あまり続きました。集められた証言により、国内、中国や東南アジアや太平洋の島々で、兵士や庶民たちがどのような戦争を体験したかがよく分かります。1980年代に60歳以上になった戦争体験者が記録した戦争資料です。
E戦争遺跡に平和を学ぶ京都の会編
『語りつぐ京都の戦争と平和』つむぎ出版、2010
  日清戦争・日露戦争に始まりアジア太平洋戦争まで、地元京都の戦争遺跡や、ゆかりある場所や人との関係で軍隊と戦争の歴史を説明します。200点以上の戦争遺跡の写真や戦争経験者の証言がはさまれて、わかりやすい構成です。戦時中の軍隊の動き、空襲や強制労働、銃後の生活の実態など、また戦前の反戦運動や、戦後の抑留・引き揚げなど幅広く紹介されます。戦争に関連する京都の近現代史の流れが、市民の視点から理解できます。
    
F熊谷徹
『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』高文研、2007
 戦後処理が日本と対比されるドイツでは、教科書でナチスが権力を掌握した過程や原因、戦争の歴史を詳しく取り上げています。また、ドイツ国民が選挙という合法的手段でナチスを政権に付けたいきさつや、そのナチスが人種イデオロギーに基づいて周辺諸国に与えた被害がいかに甚大だったかなどを、わかりやすく説明しています。ドイツの学校では、歴史の授業は単に知識を詰め込むのではなく、討論が中心に行われると紹介されます。
G小松太郎
『教育で平和をつくる−国際教育協力の仕事』岩波ジュニア新書、2006
 戦争について教える平和教育ではなく、平和のために教育の分野でできることを若者に紹介します。コソボやボスニア、アフガニスタンなど紛争後の地域で、教育プログラム作りの仕事の様子が描かれます。破壊された学校を再建したり、教育制度を整えたりします。また、子どもの教育権の保障や戦争が無い社会を、対立する集団間で共通の目標と捉え、お互いの信頼関係を築き、教育を通して平和な社会を創ろうとします。
H京都家庭文庫地域文庫連絡会編
『きみには関係ないことか−戦争と平和を考えるブックリスト '03〜'10』かもがわ出版、2011
 編集対象期間内(2003〜2010)に発行された平和と戦争に関する約500冊の本を、1冊130字くらいで要約して紹介しています。いま世界で何が起こっているか、過去の出来事から学ぶ、未来のためにできること、の3つの章に分けて本が紹介されています。今回は5度目の発刊となります(1984、1991、1997、2004、2011)。小から高までの対象学年が示されていることも、教師が平和教育を実践するために参考になります。
 
I広島市教育委員会
『広島市立学校 平和教育プログラム指導資料』 2013
 広島市教育委員会は2013年度より、広島市立の全小中高等学校で、平和教育プログラムを実施することとなりました。発達段階別に学習目標を立て、教科や道徳や特別活動の時間を利用して、各学年で3時間のユニットを構成する平和学習を計画しています。各学校で用いられるテキストとして、広島市教育委員会は小学校から高等学校までを4段階に分け、『平和教育ノート』計4冊を編集し、市内の市立学校に通う児童生徒に配布しました。
 
 平和教育をしようとする人におすすめの本を選ぼうとしました。けれども、「この本を読めば平和教育ができる。」そんな本は見つけられませんでした。戦争体験をもたない教師が平和教育をするには、まず教師自身が戦争のことをよく知り、平和について考える姿勢をもつことが大切です。その上で、学校現場での実践例を参考にして自分なりのやり方をこころみて下さい。
 ここでは、この本を読めば戦争の醜さがわかる、平和への思いが強まる、平和教育をしようかなと思う、そんな本を紹介します。

山中恒
『少国民はどう作られたか』筑摩書房、1986
  日本の戦時下において小学校が国民学校と呼ばれ、子どもが少国民と呼ばれた時代がありました。その時代に教育を受けた著者が、戦争に邁進する国民を育てるための教育の実態を詳しく語ります。体罰と教え込みがあたりまえの当時の学校では、「教育勅語」を暗記させ、儀式を重んじており、国定教科書には戦争を肯定する教材がたくさんありました。戦争へ歩む道をふりかえり、二度と歩まないようにするためにどうすればよいか考える本です。
寺島尚彦・大塚勝久
『さとうきび畑』小学館、2002
 平和音楽のジャンルに、ざわわ、ざわわのリフレインで知られる名曲「さとうきび畑」があります。その誕生のきっかけは作詞・作曲者である寺島尚彦の体験にありました。本土復帰前の沖縄、初めて案内された摩文仁の丘のサトウキビ畑で言われた「あなたの歩いている土の下に、まだたくさんの戦没者が埋まったままになっています」という言葉に動かされました。美しい沖縄の風景の写真とともに名曲が作られた背景が語られます。
竹内浩三
『戦死やあわれ』岩波現代文庫 2003
 「戦死やあわれ/兵隊の死ぬるや あわれ」と始まる「骨のうたう」は、23歳で戦死した竹内浩三という詩人の代表作です。彼は生前は無名で、映画が好きでマンガや詩を書くごくふつうの青年でした。徴兵されて兵士になって、軍隊という非人間的な組織をふつうの青年のまなざしで見つめ、書き遺しました。この本に収められた彼の詩や日記は、大きな歴史の中で一人の人間にとっての戦争がいかに不条理なものであるかを語ります。
高校生一万人署名活動実行委員会・長崎新聞社編集局報道部
『高校生一万人署名活動』長崎新聞新書、2003
  被爆地長崎で市民が作った「反核ネット」による「高校生平和大使」の取り組みの中から「高校生一万人署名」の活動は始まりました。代表者や委員長はなく、参加者の話し合いでやり方を決めます。教師が指導するのではなく、大人は相談役です。学校の枠を超え、街頭に集まる高校生の署名活動は次第に市民達の共感を呼ぶようになります。署名から広がって、途上国への学用品支援運動にも広がり、「微力だけど無力じゃない」という生徒達の合い言葉が魅力的です。
前田哲男
『戦略爆撃の思想』凱風社、2006
 一般市民を無差別に殺戮する都市爆撃がありました。日本のほとんどの都市は空襲の被害を受けました。その最悪の姿が原爆投下です。日本軍による中国の重慶への爆撃はゲルニカより一年遅れるものの、三年間に218回に渡る継続的な空襲で、これが本格的な都市爆撃の始まりといえます。日本では被害者の視点から語られることの多い都市空襲を、「される」側からではなく、「する」側から考え直す本です。
嶋哲朗
『平和は「退屈」ですか』岩波書店、2006
 元ひめゆり学徒隊員の体験談を聞いて「言葉がこころに届かない!」と発言した女子高校生がいました。また、「まず先に“答え”がある」平和学習に疑問を持つ若者たちがいました。戦争を語り伝えることや、それを受けとめ、新しく語り継ぐことについて沖縄の若者と元ひめゆり学徒隊員との交流の中で模索していきます。それは「戦争体験のない者が、戦争体験のない者に戦争体験を語る」という課題へのチャレンジにつながるのでした。
山本美香
『戦争を取材する―子どもたちは何を体験したのか』講談社、2011
 取材中に銃弾に倒れた女性ジャーナリストが若者向けに遺した本です。地雷で両脚を切断したコソボの少年、10歳で誘拐されて少年兵にされたウガンダの少年、祖国を追われて30年にもなるアフガニスタンの難民キャンプの人々などのありさまについて、そこに暮らす子どもの姿を通して語ります。本の「おわりに」で、読者に「平和な国づくりを実行していくのは、いま十代のみんなです。」「さあ、みんなの出番です。」とよびかけています。
渡辺豪
『私たちの教室からは米軍基地が見えます 普天間第二小学校文集「そてつ」からのメッセージ』ボーダーインク、2011
 普天間基地に隣接して普天間第二小学校があります。毎年同小学校で刊行される文集「そてつ」から、1970年代の児童の作品を中心に紹介し、書いた児童のその後を訪ねてルポにまとめた本です。騒音に悩まされ危険におびえて成長した小学生が父親になったとき、基地はあるけれどわが子には自分が育った土地で暮らしてほしいと願う、そんな思いも紹介され、沖縄米軍基地と共に生きることの難しさを考えさせられます。
 
■文献選定の視点(高見祥一A)
 読み聞かせに用いたり、投げ込み教材のテキストとして平和教育の授業で使える本を紹介します。

デイビッド=マッキー
『六にんの男たち』偕成社、1975
 (絵本 対象:小学校低学年から大人まで  用途:テキスト、読み聞かせ)
 「へいわにはたらいてくらす」ことを求めて歩き続けていた男たちは、ようやくよく肥えた土地を見つけ、定住してせっせと働きました。貯えができた男たちは泥棒が心配で見張りの塔を建て、番兵を雇い……。やがて大きな戦いが起きてしまいます。生き残ったのはたった6人の男たちだけでした。戦争が起きるしくみとそれを防ぐにはどうしたらいいかを考えさせられる、寓話の絵本です。どの学年にも適しています。
 
奥田継夫・文 梶山俊夫・絵
『お母ちゃんお母ちゃーんむかえにきて』小峰書店、1985
(絵本 対象:小学校低学年以上)
 戦時下の1944年より、国民学校3年生から6年生までの児童に対して学童集団疎開が始まりました。遠足気分で出かけた子どもも、すぐに厳しい現実に気づきます。学童疎開は、家族から離れる寂しさだけでなく、厳しい食料事情や陰惨ないじめのために、子どもにとっての戦場ともいえる苛酷な場でした。体験に基づいて疎開生活を詳細に綴ったた長篇『ボクちゃんの戦場』のエッセンスを、印象的な絵柄で絵本化したものです。
西川
『絵日記 少女の日米開戦』草思社、1992
 (ノンフィクション 対象:小学校中学年以上  用途:テキスト、資料として)
 京都に住む9歳の真面目で素直な女の子が日米開戦の1941年12月8日から書き始めた絵日記を掲載しています。開戦の日の校長先生のお話や、戦勝祈願の遠足、シンガポール陥落式など戦時色濃厚な話題の間に、雪だるま、「幼年倶楽部」、まりつきなどの少女らしい話題の日もあります。戦時下の学校教育や家庭生活を語る貴重な資料に、のちに大学教員になった本人が、当時の社会を批判しながら解説を書いています。
 
SHANTI
『さだ子と千羽づる』オーロラ自由アトリエ、1994
 (絵本 対象:小学校低学年以上) 
 修学旅行などで広島に折り鶴を持って行くなら、「原爆の子の像」建立のきっかけとなった佐々木禎子さんの学習は事前にしておきたいものです。二歳で被爆したが無傷だった禎子さんは10年後に白血病を発症し、亡くなりました。禎子さん関連の本や映像資料は数多くありますが、この絵本は歴史的な背景も簡潔にまとめられ、ほどよい長さで、読み聞かせしやすいサイズの絵本で、授業で扱うにはぴったりです。
 
田島征彦・吉村敬子
『ななしのごんべさん』童心社、2003
(絵本 対象:小学校低学年以上)
 双子の絵本作家と車椅子の作家との共作。戦死が名誉とされ、障害者は就学を拒否される戦時下の社会で「のうせいまひ」のもも子と絵をかくのが好きなふたごの男の子にささやかながら交流が生まれます。しかし、大阪堺大空襲で彼らも炎にのみこまれます。亡くなった1394人の中には、身元のわからない<ななしのごんべさん>がたくさんいたそうです。いちばん弱い立場の視点から戦争を描く絵本です。
 
天野夏美・文 はまのゆか・絵
『いわたくんちのおばあちゃん』主婦の友社、2006
 (絵本 対象:小学校中学年以上)
  広島の爆心地に最も近い学校の本川小学校で、平和学習のゲストティーチャーとして「いわたくんのお母さん」が母の被爆体験を語ります。母ちづこさんは、原爆で家族5人全員を奪われました。被爆直前に撮った家族写真を見ることができたのはちづこさん唯一人でした。ちづこさんは今でも家族と一緒に写真を撮られるのをいやがります。孫の「いわたくん」は2005年の式典で小学生代表として「こども代表平和への誓い」を読み上げました。
中沢啓治
『はだしのゲン わたしの遺書』朝日学生新聞社、2012
 (ノンフィクション 対象:小学校高学年以上)
 「はだしのゲン」をただのマンガとして読ませるのではなく、教材として扱おうとするのなら、この本はぜひ読むべきです。魅力的なキャラクター、ゲンの体験には作者の実体験が色濃く反映されていますが、フィクションとして作品化された世界です。作品と実体験を比較していくことで、こめられた作者の思いがより立体的に見えてきます。出版が著者の死後になったことで、原爆を描き続けた中沢啓治の、まさに遺書になりました。
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